清くて正しい社内恋愛のすすめ
 そしてひどく傷ついた穂乃莉の顔を見た時、加賀見は確信した。

 穂乃莉を傷つけられることが、自分が何かされることよりも、よほど辛いのだと……。


 ――なぜあの時、俺は席を立ったんだ。なぜもっと先に、情報をつかめなかったんだ……。


 加賀見は何度も何度も自分を責めながら、抱きしめた穂乃莉の首元に顔をうずめた。

 心の中には後悔と怒りと憤りが入り混じり、その張り裂けんばかりの想いに、今にも叫びだしそうだった。


 どれだけ時間が経っただろう。

 加賀見に抱きついていた穂乃莉の腕から、ふっと力が抜ける。

「穂乃莉?」

 加賀見はそっと身体を離すと、穂乃莉の顔を覗き込んだ。


「あんなに、がんばったのに……」

 穂乃莉はうつむいたまま、ぽつりぽつりと小さな声を出した。

「みんな夜遅くまで、必死に頑張って作業してくれたのに……」

 そう言って顔を上げた穂乃莉の目は、真っ赤に腫れている。

「加賀見が、一緒に作り上げてくれたプランだったのに……」

 穂乃莉は顔を歪ませると、両手で顔を覆った。


「加賀見。私、悔しい……。悔しいよ。加賀見と一緒に働ける、最後の仕事だったのに……」

 穂乃莉は身体を震わせながら、必死に声を絞り出す。
< 139 / 445 >

この作品をシェア

pagetop