清くて正しい社内恋愛のすすめ
 そもそもあの日、デートの約束をドタキャンしたのは加賀見だ。

 穂乃莉もそれを心底がっかりしていたはず。

 ただあの光景を見て、加賀見の中に強烈に残ったもの。

 それは東雲にエスコートされる穂乃莉も、エスコートする東雲も、その動きは息をするように自然で、当たり前の日常の動作の一部だったということ。

 それを垣間見た時、改めて穂乃莉は久留島のお嬢様なのだと思い知らされたのだ。


「くそっ」

 加賀見は小さく拳を握り締めると、自分の膝を叩く。

 心の中のモヤつく気持ちのせいで、穂乃莉にそっけないメッセージを送ってしまった自分が、ひどく情けなく感じた。


 穂乃莉と契約恋愛を始めて、すでにひと月が過ぎている。

 約束の三ヶ月が訪れた時、穂乃莉はどう決断するのだろう。


 ――穂乃莉は、他人を思いやりすぎるんだ……。


 だからこそ自分の想いではなく、久留島の将来を考えた決断をしてしまうのではないか。

 加賀見は深く息を吐くと、再び窓の外に顔を向けた。
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