清くて正しい社内恋愛のすすめ
「ちゃ、ちゃんと話したいって……言ったから……」

 目の前の加賀見の形のいい唇を、妙に意識しながら声を出すと、加賀見はくすりと笑ってそっと身体を離した。


「話って?」

 加賀見は横を向くと、そのまま資料に手を伸ばし、パラパラとページをめくっている。

「だから、契約の……三ヶ月だけ社内恋愛するって話。だいたい、利害の一致って何なの……?」

 穂乃莉はそっと加賀見の横顔を見上げた。

 昨夜ネオンの下で見た顔は、昼間に見てもやはり整っていて綺麗なんだと改めて感じる。


 加賀見はしばらく「うーん」と考え込む振りをした後、にんまりと口元を引き上げた。

「虫よけ……かな?」

「はい!? 虫よけ!?」

 穂乃莉は思わず素っ頓狂な声を上げる。


 ――虫よけって何!?


 心の中で叫びながら、ぐるぐると考えを巡らせた。

 つまり加賀見は、あまりに女性社員に言い寄られるからと、穂乃莉を引き合いに出して、諦めてもらおうという魂胆ということか。
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