清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穂乃莉たちを見送った東雲は、一人で社長室に戻ると、デスクの椅子に倒れ込むように座った。


 ――まさか、こんなことが起きるのか……!?


 心の中は、ひどく混乱している。

 デスクに両肘をつき、頭を抱えるようにうつむいていた東雲は、しばらくしてはっと顔を上げる。


 ――でもまだ……そうと決まったわけじゃない。


 東雲は手早く受話器を取り上げると、内線で秘書の斎藤を呼んだ。

「すぐに伺います」

 斎藤の淡々とした声が聞こえ、程なくして扉にノック音が響く。


「どうかされましたか?」

 電話口の口調から、いつもと違う東雲の様子に勘づいたのか、斎藤はすぐに声を出した。

 長年秘書として勤務している斎藤だが、こんなに動揺している東雲の顔は今までに一度だって見たことがないだろう。


「斎藤、内密に調べて欲しいことがある……」

 東雲はそう言うと、さっき加賀見から受け取った名刺を差し出す。

「これは?」

 小さく首を傾げた斎藤に、東雲は下からぐっと緊張した視線を送った。
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