清くて正しい社内恋愛のすすめ
 東雲は車の中で、もう何度も目を通した資料に視線を落とす。

 あれからしばらくして、斎藤が持ってきたこの資料を見た時は、一瞬目の前が真っ白になった。

 今の自分を作り上げてきたものが、足元からグラグラと崩れるような感覚に陥る程に……。


 ――でも、もう大丈夫だ。


 ふつふつと湧いてくる感情は、心の奥底にしまい込んで、蓋をしてしまえばいい。

 目的はただ一つなのだ。

 仕事だと思って冷静に粛々と進めればいい。


 東雲が小さく息を吐いた時、後部座席の扉を静かにノックする音が聞こえる。

 窓を開けると、斎藤がそっと顔を覗かせた。

「お連れしました」

 東雲は静かにうなずくと、レストランへと足を向けた。


 まるでどこぞの大使館かと思う石造りの建物のここは、看板も出ていない会員制のレストランだ。

 中は全て個室になっており、重要な会合が行われることも度々ある。

 東雲が玄関に近づくと、それを見計らったかのようにドアマンが重い扉を開いた。

 赤い絨毯が敷かれた静かな廊下を進む。
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