清くて正しい社内恋愛のすすめ

伝えたいこと

 加賀見は洗面台でバシャバシャと顔に水を浴びせると、そのまま鏡の中の自分を覗き込む。

 昨夜(ゆうべ)、母からの電話を切った後、気がついたらそのまま朝になっていた。

 それでもまだ、母の話が脳内を何度も行ったり来たりしている。


 まさかこの歳で、自分に兄弟がいたことを知ることになるとは思いもよらなかった。

 しかもその兄が、東雲だったなんて……。

 加賀見は初めて東雲の本社へ、プラン説明に行った日のことを思い出す。

 あの時、加賀見の名刺を見た東雲は、明らかに動揺した様子を見せていた。


「あっちは俺の名前を知ってたってことか……」

 加賀見はタオルで顔を拭うと、着替えをするためにクローゼットを開く。


 ――まさか兄弟で、穂乃莉を取り合おうとしていたとはな。


 昨夜の電話で、母は加賀見が東雲に入ることを望んでいた。

 それでも今の加賀見には、穂乃莉のいる久留島を出る事など考えられない。


「そういえば、穂乃莉の方はどうなってるんだ……?」

 昨日の夕方に連絡が来て以降、穂乃莉から何ら音沙汰がないことが気にかかる。

 穂乃莉にメッセージ送ろうとスマートフォンを開いた加賀見は、突然鳴ったメッセージの通知音に慌てて画面をタップした。

 メッセージの相手は穂乃莉だ。


 サッと文字を目で追った加賀見は、小さく首を傾げる。

 そこには「大事な話があるから、今日の仕事の後に二人で会いたい」とだけ書かれていた。
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