清くて正しい社内恋愛のすすめ
 しばらくして、加賀見は腕の力をふっと弱めると、「それに……」と穂乃莉の顔を覗き込んだ。

「苦労してやっと振り向かせたのに、いきなり兄貴面する奴なんかに取られてたまるかよ」

 加賀見はそう言うと、少し照れたように、はにかんだ顔を見せる。


「え……?」

 穂乃莉は目をぱちくりさせながら、しばし驚いた顔で静止してしまった。

 やっと振り向かせたとは、どういう意味だろう……?


「でも、加賀見と私は契約恋愛からはじまって……」

「穂乃莉は本気で俺が、ただの契約恋愛してたと思ってたの?」

「え……? だって、虫よけだって……」

 もう訳がわからない。

 頭がはてなマークだらけの穂乃莉の言葉に、加賀見は大きくため息をつくと、ベンチの背もたれにドサッと背中をあずける。


「あれは、お前に変な虫がつかないようにって意味だったんだけど」

「え!?」

 穂乃莉は小さく叫び声を上げると、思わずベンチから腰を浮かしていた。


「……ったく。お前は本当に、俺のこと見てなかったんだな」

 加賀見はふてくされたようにそう言い、口を尖らせてぷいと顔を背ける。
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