清くて正しい社内恋愛のすすめ

反撃の開始

 次の日の朝、穂乃莉は加賀見と一緒にマンションを出た。

 二人で同じ部屋から出勤するなんて、心臓がドキドキして落ち着かないのに、加賀見はいたっていつも通りに見える。


 ――こういうとこ、ずるいよね。


 穂乃莉はその落ち着きぶりを、ちょっと恨めしく思いながら、加賀見の隣を歩いていた。


「おはようございまぁす」

 会社のエントランスをぬけエレベーターホールまで来た時、後ろから花音に声をかけられる。

「花音ちゃん。お、おはよう……」

 穂乃莉はついドギマギしながら声を出してしまうが、加賀見はいつものように「おはよう」と、眉を上げながら返事をするのみだ。

 花音は穂乃莉の隣に並ぶと、可愛らしく首をひょこっと傾げながら顔を覗き込ませた。


「あれれ? お二人が朝から一緒なんて珍しい」

「そ、そうかな?」

「そうですよぉ」

 花音はそう言いながら穂乃莉と加賀見を交互に見比べていたが、急に、にまにまと頬を緩めだす。


「ふーん」

 花音の意味ありげな顔つきに、穂乃莉の目線が泳ぐ。

 すると花音は口元を引き上げながら、穂乃莉の耳元に顔を近づけた。
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