清くて正しい社内恋愛のすすめ
「お嬢様、そろそろお時間ですよ」

 しばらくして、後ろから正岡の声が聞こえ、穂乃莉と加賀見ははっとすると、慌てて繋いでいた手を離す。

「う、うん。わかった」

 穂乃莉が取り繕うように髪を耳にかけながら振り返ると、正岡はニコニコとほほ笑みながら立っていた。


「そろそろアポイントの時間ですので、加賀見さんは私が会長の旅館まで車でお連れします」

「そ、そうだね」

 正岡の声にうなずくと、穂乃莉は隣の加賀見を見上げた。


「加賀見。会長への説明、よろしくお願いします」

「あぁ。穂乃莉も打ち合わせ、頑張れよ」

「うん。加賀見に負けないくらい頑張るね」

 穂乃莉がガッツポーズを見せると、加賀見はあははと声を上げて笑う。

 そして穂乃莉の頭にポンと手を乗せたあと、正岡と共に玄関へと歩き出した。


 穂乃莉は加賀見と正岡の背中が見えなくなるまで見送ると、「よし!」と気合を入れて応接室に向かった。

 廊下を歩きながら、穂乃莉は自分の胸にぎゅっと手を当てる。

 加賀見の存在があるだけで、本当に何でもできる気がしてしまうのだ。

「よし! がんるぞ!」

 穂乃莉は再びぐっと拳を握ると、勢いよく応接室の扉をノックした。
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