清くて正しい社内恋愛のすすめ
「加賀見、誰かが戻るかも知れないから……」

 そんな穂乃莉の声もすぐに打ち消されてしまうほど、加賀見のキスはいつもより少しだけ強引だ。

 静かな室内に二人の息づかいとキスの音が響く。

 そして唇を重ね合う度、加賀見からは強いアルコールの香りが伝わってきた。

 その香りだけで、穂乃莉は今にも酔っぱらいそうだ。

 頬がぽーっと熱くなって来た頃、やっと唇を離した二人は、お互いの顔を見合わせるとぷっと吹き出した。


「もう、日本酒。相当飲んだんでしょ?」

 穂乃莉は口を尖らせると、むぎゅと加賀見の頬をつねる。

「いや、だって。あの会長、めちゃくちゃ酒に強いんだよ」

「当たり前でしょう? 会長は温泉街一の酒豪だもん」

「うわ……それ知ってたら、勝負受けなかったのに……」

 加賀見はそう言うと、バタンと穂乃莉の隣に仰向けに倒れる。

 そして二人は声を上げて笑った。


 しばらくして、穂乃莉はゴロンと横を向くと、加賀見の顔をじっと見つめる。
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