清くて正しい社内恋愛のすすめ

はじめての嫉妬

「今年も、お疲れさまー!」

「かんぱーい」

 会社近くのおしゃれなダイニングバーには、社員たちの明るい声があちこちから聞こえている。


 毎年最終日には、社長の知り合いがやっているという、このお店で納会が開かれる。

 普段は部署内で飲みに行くことが多いため、納会は他部署との交流ができる貴重な機会。

 穂乃莉も毎年楽しみに参加していた。


 ――でも……今年だけは少し別。


 穂乃莉は、マスターお手製のソルティドッグが入ったグラスをテーブルに置くと、チラッと横目で奥の席に目を向ける。


 コンクリート打ちっぱなしの壁際の席で、女性陣に囲まれているのは加賀見だ。

 加賀見はビアグラスを片手に、柔和な笑顔を見せている。


「あんなに嬉しそうな顔してるんだから、虫よけなんて必要ないじゃない……」

 つい(ひが)みっぽく呟いた自分に気がつき、穂乃莉ははっとして口元を押さえる。

 加賀見が女性社員に囲まれている様子など、今までさんざん見てきたはずだ。
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