清くて正しい社内恋愛のすすめ
「ふーん」

 すると突然、耳元で加賀見のからかうような声が聞こえ、穂乃莉の腕がぐっと引かれる。

「きゃ」

 穂乃莉の小さな悲鳴が会議室に響いたと同時に、身体は加賀見に抱き寄せられていた。


「“穂乃莉”顔が真っ赤だけど?」

 加賀見の艶のある声が脳内でこだまする。

 耳元にかかる吐息に、穂乃莉は思わず顔を隠すように両手で覆った。


「な、名前……呼び捨て……」

 入社して以来、初めて加賀見に“穂乃莉”と名前で呼ばれた。

 聞き慣れないフレーズに急激に恥ずかしさが込み上げ、穂乃莉の顔はさらに真っ赤だ。

 その様子に加賀見は目を細めると、穂乃莉の頬に指先で触れる。

「お前……絶対にその顔で、フロアに戻ってくるなよ」

 加賀見は楽しそうに肩を揺らすと、何事もなかったかのように部屋を後にした。


 一人取り残された穂乃莉は、よろよろと机に手をつく。

「やっぱり……腹黒王子だ……」

 はじまったばかりの穂乃莉の社内恋愛は、どうも心臓に悪すぎる……。
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