清くて正しい社内恋愛のすすめ

明らかになった仕掛け

「それでは“旅館久留島本店”周辺の開発の進捗について、今からご説明いたします」

 東雲は社員の声に目線だけ動かすと、映し出されたスクリーンに鋭い瞳を向ける。


 久留島本店で穂乃莉に会ってから、しばらく時間が経つ。

 東雲は、穂乃莉の性格からして、すぐに連絡を寄こすだろうと踏んでいた。

 久留島や周辺の温泉街のために、きっと自分の想いを犠牲にしても、東雲に入ることを決断するだろうと。

 だが、その予想は呆気なく外れた。

 加賀見が弟だという事実と、母親の望みを話して揺さぶりをかけた時は、穂乃莉の心は相当動揺していたはずだが……。


 しばらく物思いにふけるようにぼんやりと考え込んでいた東雲は、そこではたと顔を上げる。

 そういえば、加賀見に事実を話すと言っていた母親からも、その後何の音沙汰もない。

 東雲との関係修復に涙して喜び、加賀見に“東雲グループに入るように説得する”と興奮していたはずなのに……。


 元々、加賀見が東雲に入ることを拒むであろうことは想定内だ。

 でも母親の様子からして、どちらにせよ何か連絡があっても良さそうなものだが。
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