清くて正しい社内恋愛のすすめ
 結局東雲の心は、母と和解をしても、何も救われていなかったのか。

 すると穂乃莉の隣で加賀見が口を開く。


「本当にそうでしょうか?」

 加賀見は詰め寄るように東雲に近づいた。

 東雲は不思議そうに首を傾げている。

「問題は、もっと単純なものなんじゃないんですか?」

「どういう意味で?」

「あなたは本心では、母を許したいと思っているんじゃないですか? 問題を複雑にしているのは、あなた自身なんじゃないですか?」

 加賀見の声は鋭く低く響いた。

 東雲はしばらくその場に立ち尽くしていたが、ふっと目線を下に向ける。


「母の腕に抱かれていただけの君に、僕の気持ちがわかりますか?」

 東雲のその言葉に、加賀見が微かにピクリと動いた。


 しばらくして東雲は「無駄話をしてしまいましたね」と、穏やかなほほ笑みに戻った顔で穂乃莉と加賀見を振り返る。

「またいつかお会いすることもあるでしょう……」

 東雲はそれだけ言い残すと、さっと身を翻して二人の元を離れていく。


「加賀見、いいの……!?」

 穂乃莉はたまらずに加賀見を見上げたが、加賀見は東雲の背中をただじっと見送るだけだった。
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