清くて正しい社内恋愛のすすめ

エピローグ

「女将、専務。おかえりなさいませ」

 本店に着いた穂乃莉と加賀見は、笑顔の従業員に出迎えられる。

「執務室にいるから、何かあれば内線を」

 穂乃莉は従業員に手短にそう伝えると、加賀見と共に執務室へと向かった。


 頭の中は、まださっきの余韻が残ったままだ。

 穂乃莉は静かな廊下に響く、絨毯をこする足音だけに耳を澄ませていた。

 部屋の前まで来ると、穂乃莉が両開きの扉の取手を引き、二人は室内へと入る。

 重い扉が背後でバタンと低い音を響かせた途端、二人はお互いをぎゅっと抱きしめ合った。


「穂乃莉、本当にありがとう」

 加賀見はそう言いながら、穂乃莉のおでこに、こつんと自分の額をぶつける。

「お母さまと東雲さん。二人の仲を取り持ちたいっていう、陵介の気持ちが通じたんだよ……」

 穂乃莉は加賀見の背中に回した手を、優しくぽんぽんと動かした。

「これでやっと、心のつかえが取れた」

「二人とも、泣いてたね」

「あぁ、そうだな」

「もう、大丈夫だよね」

「きっと大丈夫だよ。だって親子なんだから」

 加賀見の言葉に、穂乃莉はそっと顔を上げる。
< 423 / 445 >

この作品をシェア

pagetop