清くて正しい社内恋愛のすすめ
「ちょ、ちょっと……陵介、ストップ」

 再びキスしようとする加賀見の唇に手を当てながら、穂乃莉が慌てたように声を上げる。

 それでも加賀見は、穂乃莉を抱き寄せる手にさらに力を込めて離そうとしない。


「ちょ、ちょっと待って……」

「なんで?」

「なんでって……その……。誰か入ってくるかも知れないし……。こんな所見られちゃったら」

 穂乃莉は頬を真っ赤にすると、恥ずかしそうに下を向いた。

「ふーん、じゃあ……」

 加賀見はにんまりと口元を引き上げる。

「誰かが入って来られなければ良いわけだ」

 加賀見はわざとらしくそう言うと、腹黒王子の顔を覗かせた。

「も、もう! そういう事じゃないでしょう……!?」

 口を尖らせて、ぷいっと顔を逸らそうとした穂乃莉の顎先を、加賀見がいとも簡単に自分の方へと向けさせる。


「そう言えば、前にもあったよな。こういうシチュエーション……」

「え?」

「会社の資料室で」

「あ、あれは……」

 穂乃莉の脳裏に、資料室での出来事が蘇る。

「あの時は、誰かさんが扉を閉め忘れて、お預けになったんだっけ」

 加賀見が再びにんまりと口元を引き上げた。
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