清くて正しい社内恋愛のすすめ
 それでも、そんな愚痴をすべて吹き飛ばすほど、加賀見の言葉の破壊力にやられた。


 ――なんなの、この俺様感……。


 穂乃莉は両手で顔を覆うと、耐え切れず笑い声を立てる。


「なんだよ、急に」

 加賀見が怪訝な様子で穂乃莉を覗き込む。

「なんでもないよ。加賀見の面白い顔が見られたって思っただけ」

「なんじゃそりゃ?」

「もういいから下ろしてよ」

「いやだ、下ろさない。お前まだふらついてるだろ?」

「ほんっと加賀見って頑固者」

「お前に言われたくないな」

 加賀見はぷいとそっぽを向くと、再び足を進めだす。


 頑なに下ろしてくれない加賀見の腕の中で揺られながら、穂乃莉はコツンと加賀見の胸元に頭をのせた。

 足音に混ざってドキドキとした鼓動の音が、酔いのまわった頭に心地よく響く。

 そのスピードが、自分の鼓動とリンクするように感じるのは、思い過ごしだろうか?


 穂乃莉の頭の中はごちゃごちゃとこんがらがり、一旦思考をストップさせた。


 ――とりあえず……今日はパンツスーツで良かったってこと。


 ぶらぶらと揺れる自分の足先を眺めながら、穂乃莉は小さくほほ笑んだ。
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