清くて正しい社内恋愛のすすめ

キスの意味

「ほら、着いたぞ」

 軽く肩を揺すられ、穂乃莉ははっと顔を上げる。

 どうも乗り込んだタクシーで、加賀見に寄りかかりながら、完全に眠りこけていたようだ。


「ご、ごめん!」

 慌てて顔を上げると、車はいつの間にか穂乃莉のマンションの前まで到着していた。

 変に眠ってしまったからだろうか。

 頭がぼーっとして足元がふらつく。


「ほら」

 加賀見が優しい声で手を差し出し、穂乃莉はドキドキとしながら左手を重ねた。

 加賀見に手を引かれながら、だだっ広いマンションのフロアを歩く。

 妙に静かな通路に、絨毯をこする二人の足音だけが響き、徐々に心拍数を上げていくのがわかった。

 部屋の前までたどり着くと、穂乃莉がぎこちない手で取り出したキーを受取り、加賀見が扉を引いてくれる。


 社会人になってから始めた一人暮らし。

 祖母が用意してくれたこのマンションに、男の人が入るのは加賀見が初めてだ。


 ――こういう時、どうしたらいいの……!? 部屋にあがっていくの……!?


 あまりにも恋愛から離れすぎて、どうすることが正解なのかわからない。
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