清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ごちゃごちゃと考えながら足を踏み入れた穂乃莉は、ヒールのかかとを引っかけて、思わず前につんのめりそうになった。

「あぶな!」

 加賀見の声がすぐ横で聞こえる。

 なんとか加賀見に抱き止められた穂乃莉は、そのまま広い玄関の上り口のフロアに座り込んだ。


「び、びっくりしたぁ……。なんか、色々とごめんね」

 穂乃莉は頭をかきながら、加賀見の顔を見上げてドキッとする。

「お前は本当に危なっかしいんだから」

 そう言いながら穂乃莉の頭に手を置く加賀見の表情は、今まで見たことがない程優しい。

 加賀見は穂乃莉の前にしゃがみ込むと、ポンポンと手を動かした。

 穂乃莉はなんとなく気恥ずかしくなり下を向いた。


「なんであんな飲み方したんだよ」

 加賀見が頭に当てた指先をずらすと、穂乃莉の髪をすくう。

「……あんな飲み方って?」

 穂乃莉は指先が頬をかすめる感覚に、ドキドキとしながら小さく首を傾げた。

 だってあの時、加賀見は奥の席で白戸たちと楽しそうに笑っていたじゃないか。

 穂乃莉の姿は見えていなかったはずだ。
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