清くて正しい社内恋愛のすすめ
「うん。おやすみ、よいお年を……」

 穂乃莉は加賀見の足音が遠のき、聞こえなくなるまで、名残惜しそうにじっと見送ったのだ。


 穂乃莉は小さくため息をつくと、再び窓の外を見つめる。

 景色は徐々に雪が混じり、さっきまで歩いていた都会の空とは全く違う色が覗いていた。


 社会人になり実家を出てから、毎年夏と冬の長期休みには必ず、祖母に顔を見せに帰っている。

 実家が大好きな穂乃莉にとっては、その日はいつも待ち遠しく、心弾ませて新幹線に乗り込んでいたものだ。

 それが今日はどうだろう。

 こんなにも都会を離れることに、心が躊躇われるなんて。


 ――加賀見がいるからかな……。


 しばらくして、徐々にゆっくりとなるスピードの中に、よく見知った風景が映るようになる。

 軽快なメロディと共に車内アナウンスが流れ、穂乃莉はキャスター付きの荷物を手に取るとそっと腰を上げた。


 あの日、加賀見と白戸との関係性はわかった。

 そして自分と加賀見との関係性も……。


 ――三ヶ月だけの契約恋愛……。結局はそういうこと……。
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