清くて正しい社内恋愛のすすめ

心の比重

 穂乃莉は新幹線の窓際に腰かけると、ぼんやりと窓の外に目を向ける。

 もう年末もギリギリになり、世の中はすっかり新年を迎える準備が整っているというのに、穂乃莉の心は仕事納めのあの日から止まってしまったようだ。


 加賀見とキスをした玄関を見るたび、胸の奥がキュッと掴まれたようになる。

「重症……」

 恋の病がこんなにも重いとは思ってもみなかった。


 あの日、二度目の甘いキスを降らせた加賀見は、そっと穂乃莉を抱き起こすと、優しい顔を覗かせた。

「じゃあ、そろそろ行くから。年末はゆっくり休めよ」

 加賀見の声に、穂乃莉はぽーっとのぼせ上がった顔を向ける。

「あの……上がって行かないの……?」

「お前それ本気で言ってる?」

 加賀見がくしゃりと顔をほころばせ、穂乃莉は思わず頬を真っ赤に染めた。


「今日はやめとく。 “清い社内恋愛”だから」

「……どういうこと?」

「いや、こっちのこと。じゃあ、おやすみ」

 加賀見はそう言うと、穂乃莉の頭のてっぺんにそっと口づけをした。
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