清くて正しい社内恋愛のすすめ
「そうね。まぁ、まだ今はいいわ。あと三ヶ月、トラベルで心残りのないように過ごしなさい」


 穂乃莉は執務室を出ると、自分の部屋へと向かう。

 あの後は祖母とたわいもない会話をしたが、何を話したか覚えていない程、穂乃莉の心は動揺していた。


 ふと顔を上げると、廊下の窓から宿泊している家族が、浴衣姿で仲良く大浴場に向かって歩いて行くのが見えた。

 小さな女の子を間に挟み、両脇で両親が手を繋いでいる。

 穂乃莉はその姿に、自分と加賀見の面影を重ねて、途端に胸が苦しくなった。


 ――好きな人との結婚なんて、私には夢の話だ……。


 祖母のデスクの上には、重ねられたお見合い写真の束が置いてあった。

「すごい数でしょう? 自薦・他薦さまざまよ。見てみる? 結構面白い子もいるわよ」

 祖母に台紙を差し出され、穂乃莉はうつむくと小さく首を振ったのだ。


「加賀見は、今何してるんだろう」

 穂乃莉は小さくつぶやくと、唇にそっと指を当てた。
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