私が社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
4.衝撃
 ユージーンはひどく苛立っていた。
 毒女とも呼ばれている結婚相手がこの地へやってくるのに、こういうときにかぎって魔獣討伐に駆り出される。
 ユージーンが二十六歳になっても独身であるのは、この魔獣討伐というのも理由であった。
 魔獣討伐のため、領地を離れることが多い。ようは、出会いが極端に少ない。仮に奇跡的に出会ったとしても、不在がちな夫の代わりに、あそこの女主人を務めあげようとする肝のすわった女性がいなかった。
 もしかしたら、彼女も逃げるかもしれない。
 いや、逃げられてもいい。『結婚』という事実さえ作ってしまえばいいのだ。
 だからこそ、それを見届けられないことに苛立っていた。
 念のため、婚姻届けは百枚ほど準備した。怖気づかれて破かれても困るからだ。
 なによりも、この結婚は王命。
「いいか、お前たち。さっさと魔獣をやっつけて、早く帰るぞ」
 ユージーンは、基本的には魔獣討伐に妻子持ちの騎士を同行させない。それは、魔獣討伐が一日、二日で終わるようなものではないからだ。
 たまに「金のために」と自ら志願する者もいる。そういった者たちを優先的に同行させていた。
 しかし、こういうときにかぎって、魔獣が次から次へと湧いてくる。
 結局、すべての魔獣を討伐するのに、二か月という期間を要してしまった。
 部下たちにもねぎらいの言葉をかけ、なんとか帰路につく。
 城塞が見えてきたときには、感極まって泣く者すらいた。それだけ今回の討伐は、苦戦したのだ。
 彼らにはしばしの休息を与え、ユージーン自身も身体を休めるため、城のエントランスへと足を踏み入れた。
「お帰りなさいませ」
 見知らぬ女性が出迎えた。
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