私が社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「失礼する」
 彼も湯浴みを終えたところなのだろう。襟足が少し濡れており、水滴がこぼれている。こうやってまじまじと彼の顔を見るのも初めてである。
 結婚して二か月、初めて顔を合わせたのが今日なのだから、仕方あるまい。
「どうぞ、そちらに。今、お茶を淹れます。旦那様のお茶には毒をいれませんから、安心してお飲みください」
 クラリスがお茶を淹れるたびに、毒が入れられるんじゃないかと彼らは心配していた。彼らとは、アルバートの側にいた者たち。
 しかし、クラリスだってわきまえている。
 毒を摂取しなければならないのはクラリスだけであり、他の人は毒を体内に取り込んだことで、最悪、死に至ることも。
「どうぞ。いたって普通のハーブティーです」
「君のは?」
 彼はクラリスのカップの中身が、ハーブティーではないことに気づいたようだ。
 カップをテーブルの上においた彼女は、ユージーンの向かい側に座った。
「わたくしのは、いたって普通の毒茶です。といいましても、わたくしが毒茶と呼んでいるだけでして。旦那様と同じハーブティーに、毒を入れたものになります」
「君の話は、俺の想像を超えているようだ。すまないが、ゆっくりと教えてもらえないだろうか」
 クラリスの話を最初から否定せず、こうやって歩み寄ろうとする彼の姿に好感が持てた。
「話は、わたくしの両親にまでさかのぼりますが。わたくしの母親が毒師だったのです。父は、王宮で近衛騎士として務めております。そんな二人の出会いは、尺の関係で端折らせていただきますが」
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