私が社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
5.黒色
 ユージーンが部屋に来ると言っていたのに、彼はなかなかやってこない。そうこうしているうちに、メイが湯浴みの準備ができたと呼びにきた。
 なぜかいつもよりも念入りに磨かれる。
 ここの城で働いている使用人は、クラリスに好意的である。きっかけは一人の女性が毒蛇と対峙していて、その場でクラリスが蛇を掴みあげたことだろう。
 クラリスにとって、毒は必要不可欠なもの。だから、毒蛇がいたことに歓喜を覚えた。
 アルバートの側を離れてしまったため、どうやって毒を手に入れようかと考えていたところだったのだ。しかし、ウォルター領には豊富に毒があった。
 ネイサンに聞けば、昔からその毒に悩まされている領民も多いという。さらに、ときおり出現する魔獣たち。
 ウォルター領の騎士たちは、毒から領民を守り、魔獣と隣国から国を守るという役を担っていたのである。
「奥様、おきれいですわ」
 メイをはじめとする侍女たちに、徹底的に磨き上げられ、薄手のナイトドレスを着せられた。寝るだけであるはずなのに、髪もゆるくまとめられる。
「それでは、私たちは失礼します」
 メイまで部屋を出て行った。いつもであればないはずのワゴンが、部屋の隅に置かれている。
 ユージーンには毒師について説明するだけなのに、これからいったい何が起こるというのか。
 控えめに扉が叩かれた。
 それは外に通じる扉ではなく、部屋と部屋をつなぐ内側のほう。
「は、はい……」
 いつもと異なる雰囲気に、クラリスは柄にもなく緊張する。
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