私が社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
2.王命
 ホラン国の東側に位置するウォルター領。ここは国境の要ともあり、石造りの城塞が街並みを見下ろすかのようにして建っている。
 国境の城塞が守るのは、隣国からの襲撃に備えてだけではない。魔獣と呼ばれる、人を襲うような獣から、人々の命と生活を守るために、それらが国内に入り込まないようにと見張っているのだ。
 ウォルター領の領主でもあり城主でもあるユージーンは、一通の手紙に目を通すと、黒髪の間に指を入れるようにして頭を抱えた。
「ユージーン様。どのような内容で?」
 この手紙を持ってきたのは、側近のネイサンである。
 王家の押印で封印されていたため、彼は慌ててこの手紙をユージーンのもとへと届けたのだ。
「縁談の話だ」
 ユージーンは頭を抱えたまま、手紙だけをネイサンに差し出した。
「拝読いたします」
 この話は王命である。となれば、断れない。いや、断ってもいいが、断ったとたんに火花が散る。
 いっときの感情で、むやみに人を争いに巻き込むようなことをしてはならない。
「お相手の方は……ビクスビ侯爵家のクラリス嬢ですか」
「知っているのか?」
「知っているも何も……。まぁ、噂というものを聞いただけです」
「噂? どのような噂だ?」
「アルバート殿下の腰巾着。殿下に近寄る女性を蹴散らす毒女(どくじょ)
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