私が社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
3.契約
 クラリスは馬車に揺られ、ウォルター領へと向かっていた。付き添いは、幼い頃からずっとクラリスについている侍女のメイのみである。あとは、王家から派遣されている近衛騎士たち。
 クラリスが逃げないようにと、見張りも兼ねているのだろう。あのアルバートの考えそうなことだ。
「クラリス様。本当によかったのですか? この縁談をお受けになって」
「断れないでしょう?」
 アルバートは、本当に国王の名を使ってきた。もちろん、ビクスビ侯爵家としては断れない。相手のウォルター辺境伯が断ってくれないかなぁと淡い期待を抱いたが、どうやら彼も権力に屈したようだ。
 アルバートとウォルター辺境伯であるユージーンは、幼い頃から顔を合わせれば喧嘩をしているような仲だったとか。
 それもクラリスがアルバートの側に入り浸る前の話であったため、クラリスはユージーンと直接会ったことはない。
 ユージーンは、若くして辺境伯の地位についたとも聞いている。それは彼が、前辺境伯が年を取ってから授かった子であり、年老いた前辺境伯が爵位をユージーンに譲ったため、らしい。
 そして例のアルバートとハリエッタの婚約披露パーティーにも、ユージーンは魔獣討伐で不在にしており、欠席だった。
「かわいそうよねぇ……」
 クラリスはしみじみと呟いた。
「えぇ、本当に。あれほどアルバート殿下に尽くしたというのに、まるでぼろ雑巾のようにポイっと捨てられて。お嬢様が本当に哀れです」
「じゃなくて。ウォルター辺境伯よ。よりによって、毒女と知られているこのわたくしを娶らされるのよ? かわいそうじゃなくて? ウォルター辺境伯であれば、もっとふさわしいご令嬢がいらっしゃると思うの」
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