人嫌いと聞いていた王太子様が溺愛してくるのですが?~王太子妃には興味がないので私のことはどうぞお構いなく~
序章 スノウ、後宮へ
 アウラウェイン王国。
 エリュシオン大陸の南側にある自然豊かな国だ。
 海と山に囲まれ、広大な平野部も有している。
 王都ミシランは多くの人が行き来しており、その賑わいは毎日祭りでも開かれているのかと思うほど。近くには港町もあり、船での交易も盛んだ。
 昔は戦争もあったが、ここ三百年ほどはそれもなく、皆、平和に暮らしている。
 そんな国の、王都の中心街に屋敷を構えるラインベルト公爵家に私、スノードロップ・ラインベルトは十九年前、銀色の髪、紫色の瞳という容姿を持って生を受けた。
 ラインベルト公爵夫妻――つまり私の両親は娘の誕生を心から喜び、その三年後に産まれた弟共々、今に至るまで大切に育ててもらっている。
 ラインベルト公爵家といえば、王家に次ぐ家柄としても有名。
 そんな家で愛情を目一杯受け、何の問題もなくすくすく育つはずだった私は、何の因果か五歳の頃、高熱を出した折に前世というものを思い出してしまった。
 前世――私がスノードロップとして生まれる前の人生。
 人は死ねば、いつかは生まれ変わり戻ってくるという思想があることは知識として知っている。だが、まさか自分が体験するとは思わなかった。
 しかも私が前世で生きていたのは、地球という惑星の小さな島国――日本だ。
 そこは科学技術が非常に発展していて、生活習慣や価値観に至るまで、今私が住んでいる世界とはだいぶ異なっていた。
 そう、私は異世界に生きていたのだ。
 そこでの私はどうだったか。記憶によれば、成人女性。
 普通に仕事をし、時には趣味を楽しんだ、どこにでもいる当たり前の女性だった。
 いつどこで、どうやって死んだかまでは思い出せなかったが、あまり快くない記憶だろうことは予測できるので、今後も思い出す予定はない。
 別に必要ないし。
 とにかく、その異世界人(成人済)としての記憶を僅か五歳で思い出してしまった私は頭を抱えたのだけれど、幸い熱で寝込んでいる間に記憶の整理ができたので、混乱を起こすことも家族に変な眼で見られるようなこともなかった。
 思い出したものは仕方ない。要らない記憶はしまっておけばいい。そう割り切ったのである。
 多少、価値観が前世寄りになってしまったところはあるし「あの子、変わってるわね」と変な目で見られることも多々あるが、所詮は他人の評価。
 家族には愛されているので、そこまで気にしていない。
 生まれ変わったこちらの世界に民主主義はなく、王制で貴族社会なのだけれど、十九年も生きていればさすがに馴染む。
 受け入れられるものは受け入れ、受け入れられないものは……できるだけ避ける。
 そんな感じで生きてきた――のだけれど。
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