優しい彼の裏の顔は、、、。【完】
「男はね、みーんな狼なんだよ? こんな風に迫られてそんなに震えてたらさぁ、相手の思う壷だよ?」

 郁斗の表情は変わらない。先程同様優しく心配してくれている口振りも変わらない。

 それでも、詩歌は反射的に彼の事を“怖い”と思った。

「……あの、私……」
「ん? ああ、ごめんね、怖くなっちゃったかな? 別に脅かすつもりは無かったんだよ。けどね――」

 詩歌が怖がっている事に気付いた郁斗は彼女を解放するのかと思いきや、彼の瞳がスっと細められたのと同時に詩歌の顔の横辺りに両手を付いて彼女を追いつめて自身の顔を近付けると、

「何でも……とか、そういう事を軽々しく言うもんじゃねぇよ? だって、こーんな風に迫られたら、逃げられねぇだろ?」

 凍てつく程に冷たい瞳で詩歌を見つめながら、少しキツめの口調でそんな言葉を言い放った。

「…………っ」

 郁斗の豹変ぶりに詩歌の体温は一気に下がっていき、言葉を発する事すら出来ずに身体を震わせていると、

「ま、俺は“紳士”だから、何もしねぇけどな……他の男なら、アンタ、ヤられてるぜ?」

 再び表情が緩み、一気に雰囲気が変わった郁斗は言いながら詩歌を解放した。

 それには流石の詩歌も拍子抜けしたのか、力が抜けてホッとした顔つきをしている。

 ゆっくりと身体を起こして少し乱れた髪を整えた詩歌はコロコロ変わる郁斗に戸惑いながらもチラリと彼に視線を向けた。
< 15 / 192 >

この作品をシェア

pagetop