ミステリアスな王太子は 花嫁候補の剣士令嬢を甘く攻め落とす【コルティア国物語Vol.1】
ロザリーと別れてクリスティーナは一人、王太子の執務室のドアをノックした。

「殿下、アンジェにございます」
「どうぞ」
「失礼いたします」

深々とお辞儀をしてから入ると、広いデスクの向こうで王太子が顔を上げた。

クリスティーナを見て、にこやかな笑みを浮かべる。

「これは珍しい。君の方から私に会いに来てくれるなんて。どうかしたのかい?もしかして、私に会いたくなったとか?」
「いえ、あの…」

クリスティーナは部屋に二人きりなのを確認すると、声を潜める。

「殿下、このように荒れた天候では用心しなければ…」
「ん?ああ、雷が怖いんだね。おいで。私のそばにいるといい」
「いえ、そうではなく」

そこまで言った時、王太子の後ろの大きな窓の外に稲妻が走った。
と同時に、黒い人影が一瞬だけ浮かび上がる。

「殿下、伏せて!」

クリスティーナは左手をデスクについてヒラリと飛び越えると、王太子を自身の背中でかばいながら後ずさった。

バリン!と窓を割る音がしたが、それよりもはるかに大きな雷の音が響き渡る。

(助けを呼んでも無駄ね。聞こえやしないわ)

クリスティーナは覚悟を決めると、ドレスの下に忍ばせておいた短剣を握りしめる。

「誰なの?姿を見せなさい!」

割れた窓を睨みながら剣を構え、クリスティーナは敵の動きを待った。

外から雨と風が一気に吹き込み、クリスティーナの身体を打ちつける。

微動だにせず神経を研ぎ澄ましていると、ヒュッと何かが空を切る音がして、クリスティーナは反射的に短剣で払いのける。

トスッとデスクに矢が刺さったのを見ると、クリスティーナは一気に怒りを爆発させた。

「こんな至近距離で飛び道具を使うなんて、あなたどれだけ肝っ玉が小さいのよ?正々堂々と戦いなさい!相手はこんなにか弱そうなレディなのよ?それでも怖気づくなんて、この腰抜けが!」

ブッ!と背後で王太子が吹き出す。

やがてユラリと黒いマントの男が姿を現すと、クリスティーナは左手を横に伸ばして王太子を守りながら右手で短剣を構えた。

男はマントを翻してクリスティーナに飛びかかる。
その手には長い剣が握られていた。

キン!とクリスティーナは短剣で受け止め、王太子をかばいながら壁際へと後ずさる。

隙を見て、壁に掛けられている剣を掴もうとしていた。

(あと少し…)

するとすぐ後ろの窓がバリンと割られ、部屋にサッと誰かが入って来た。

(ええ?!もう一人いたの?)

さすがに手一杯だとクリスティーナが顔をしかめた時、意外にもその人物はクリスティーナを守るように敵の前に立ちはだかった。
< 28 / 52 >

この作品をシェア

pagetop