レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 そもそも『今日は気付かずに食べるかな』と目を爛々とさせている顔を並べ立てられる中では空腹感もどこかへ行ってしまう。せっかく手の込んだ料理を作ってくれた料理人たちに心の中で謝りながらも、ほとんど手をつけずに残しつづけてきた結果が『ノツィーリア姫は食にうるさくわがままだ』と言われる原因となっているのだった。


 魔導師に視線を戻す。不健康な顔色をした青年が鏡のようなガラス板を指先で叩くと、またたく間に絵が描き出された。
 それを顔の横に掲げてゆっくりと向きを変え、父王とノツィーリアの両方に見えるように動かす。

「便利なものであるな、魔法というものは」

 父王のつぶやきを聞きながらガラス板に注視する。そこに描かれているのは絵ではなく、望遠鏡が向けられた方向に立つ二人の兵士のようだった。しかし――。

(魔法であんなこともできるの……!?)

 望遠鏡で捉えている人物を別の板に映しだせるだけでも驚くべきことなのに、さらに二人並んだ兵士のうちの片方は輪郭のあいまいな人影になっていて、誰だか判別できないようにされている。
 父王がその魔法の目覚ましさに満足げにうなずいたあと、真意を説明する。

「こうして客の姿は隠しつつ、貴様が務めを果たしている様子をその場にいない者にも観覧できるようにするのだ。この板は一日五十万エルオンで貸与する。こうすれば一晩で複数名を相手するより貴様の負担も軽くなろう。我の温情に感謝するのだな」
「……!」

 ひゅっ、と喉が音を立てる。

(なんておぞましい発想なの! こんなの大勢の人の前で犯されるも同然じゃない……!)

 一瞬にして視界が暗くなる。全身が震えだし、ふらつきそうになったところを辛うじて踏みとどまる。

(魔導師の力を恐れて迫害し追放までしたというのにこんなにも低俗な用途に使うなんて、魔導師に対する冒涜だわ……!)
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