レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「まあ! 姉姫様、よーくお似合いですわあ」
「これならお客様もお喜びになること間違いなしですわねえ!」

 メイドたちが、にやにやと歯を見せて笑いながら心にもないことを口々に言う。
 ノツィーリアは四方から浴びせ掛けられるからかい言葉を無表情でやりすごすと、宝石で飾られたサンダルを促されるままに履いた。
 続けて円卓に移動させられて、茶を出される。

「お務め前に、こちらをお飲みください」

 身繕いのあとの、くつろぐための茶ではないことを念押しされて、おそるおそるティーカップを手に取る。
 それは、今までに嗅いだことのない甘やかな香りがした。味自体はおいしく、メイドの鋭い目付きに見張られる中、ゆっくりと飲み進めていく。

「……ごちそうさま」

 そっとカップを皿の上に置く。茶に細工をされていなかったことに安堵して、ほっと息を吐き出す。

 メイドたちが静々と茶器を片付けはじめたその直後。
 ノツィーリアの身に異変が起こった。心臓が一度、強く脈打つ。

(これは……!)

 全身が燃えるように熱くなった。この体の反応は、父王に読まされた本で確かに目にした記憶があった。媚薬を飲まされたのだった。これからさせられることを思えば当然だろう。
 動揺を悟られぬように奥歯を噛み締めていると、メイドのひとりがもったいぶった口調で言い放った。

「こちらのお茶、娼館から取り寄せたそうです。()()()()んですって」

 メイドたちが一斉に笑い出す。
 耳障りな嘲笑が熱を帯びた体を小突き回し、心を切り付ける。
 ノツィーリアは膝の上できつく拳を握り締めると、胸の痛みと全身を襲う熱をぐっとこらえたのだった。

    ***

 約束の時間が迫り、メイドに前後を固められた状態で客室への移動を始める。
 これから何が起こるか分からないという不安が、心に無数の棘を突き刺してくる。

 本で学んだ淫らな行為を、初対面の相手としなければならないという恥辱。
 その一挙手一投足を、魔道具を通して大勢の人間に見られるという屈辱。
 自身のもてなしで満足させられなかったときに、客を怒らせてしまうのではないかという恐怖。
 その後の父王からの叱責を想像すれば、たちまち体が委縮する。

 今すぐここから逃げ出したい、そして今度こそ手すりを乗り越えて石像に飛び付き、心臓を槍に貫かれたい――。
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