レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~

9 父王の魂胆

「……貴公らは客のもてなし方を知らぬようだな」

 よく通る冷ややかな声が、はしゃぐ父娘に水を差す。
 ノツィーリアそして父王と妹が一斉にルジェレクス皇帝を見ると、その顔には白けた表情が浮かべられていた。

「だいたい余はノツィーリア姫だからこそ、五億エルオンを支払い、会いに来たのだぞ」

(私だからこそ!? 一体なぜ?)

 そこまでの価値は自分にはないというのに、会ったこともない他国の姫に多額の金を払うなんて――。理由が思い当たらずノツィーリアは懸命に思案した。
 皇帝陛下という身分なだけに普通の女に飽きて、悪女を味見しようという考えなのだろうか。

 確かにこの場は淫売のために設けられた席なのだから、会ったこともない女を金で買うという行動に何ら疑問はない。その相手が簡単には会うことのできない他国の姫であればその程度の額は出せるということなのかも知れない。
 気候の悪化で貧しくなりゆくこの国と比べて周辺国を併合し経済規模の拡大した帝国とでは、貨幣価値が異なるのは当然だった。

 皇帝がノツィーリアだからこそ、とまで言うのであれば、なんとしてもこの一晩で冷徹皇帝の機嫌を取り、五億エルオン分の働きをしてみせなければならない。
 国交断絶までした父王の懸念する通り『この国に攻め込もう』などと考えないようにしていただくために――。

 ノツィーリアが決意を固める横で、父王が皇帝に食いさがる。
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