レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「ルジェレクス皇帝陛下。悪女と名高いノツィーリアではなく我が国の至宝、ディロフルアがお相手すると申しておるのだぞ。なにが不満か」
「大いに不満であるな。姉妹とはいえ比べものにならぬではないか」
「では、ディロフルアと契るつもりはないと?」
「当然であろう。なぜ余がそのような醜女と契らねばならぬのだ」
「醜女ですって!? まだそんなことおっしゃるのね! ひどすぎますわ!」

 ディロフルアがまた丸めた手を目に当ててうそ泣きを始めた。慰めろと訴えだした妹を父王が抱きよせる。よしよしと言いながら長い金髪を何度も撫でさすったあと、皇帝を睨みつけた。


「我が愛娘を侮辱したこと、後悔するがよい、ルジェレクス皇帝陛下よ」
「!?」

 突然の態度の変化にノツィーリアが目を見開いた、その瞬間。

 大勢の近衛兵が寝室になだれこんできた。


 派手な装飾の施された鎧で身を固めた近衛兵が壁沿いに並んでいき、出入り口と窓、そして暖炉までをも固める。
 包囲網が敷かれていく光景を眺めわたした父王が、肥えた腹を揺らして笑いはじめた。

「ふははは、ふはははは! あっけないものよのリゼレスナ帝国第三代皇帝ルジェレクスよ! この部屋は我が国の精鋭たる近衛兵が取りかこんだ! いくら国賓とはいえ、我が愛娘ディロフルアを拒絶したこと、許すわけにはいかぬ!」

(まさか皇帝陛下を(あや)めるつもりなの……!?)

 父王の所業にノツィーリアは愕然とせずにはいられなかった。そんなことをすればただちにリゼレスナ帝国に攻めこまれてしまう。まっさきに犠牲になるのは、なにも知らない国民だ。

「やれ」
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