レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「……ノツィーリア姫」

 呼びかけに振りむけば、妹の元婚約者ユフィリアンと目が合う。改めてその姿を見ると、髪の色が金から赤、瞳の色が青から緑に代わっていて、同一人物だということに驚かされてしまう。

「あなたは帝国の方だったのですか?」
「はい。私の真の名はユフィオルト・ルヴセノアと申します。十年前、リゼレスナ帝国がレメユニール王国より国交断絶を通告されたのち、王国の偵察のために帝国より送り込まれた者です」

 無表情だった緑色の目が、ふと切なげに細められる。

「ノツィーリア姫。貴女様のこと、長らく見捨ててきてしまい大変申し訳ございませんでした。貴女様を庇えば妹姫の怒りを買う恐れがあったため、妹姫の狼藉をとがめることが叶わず……」
「いえ! その節は私の命をお救いくださったこと、心より感謝申しあげます」

 自害しようとしたところを彼に止めてもらえなければ、今ごろ私はここにはいなかった――。
 思い返せば助けてもらった瞬間の、背中に手を添えて衝撃を和らげてくれたあの行動は、妹にとがめられずに済む最低限の優しさだったのだろう――。
 温かな思いを抱きつつ、命の恩人に微笑みかける。ユフィオルトはノツィーリアとまっすぐに視線を合わせると、わずかに口元を綻ばせた。
 続けて皇帝に視線を移し、胸に手を置く。

「ルジェレクス皇帝陛下。私は準備が整い次第、再びレメユニール王国に戻り、シュハイエル公爵と合流し混乱を収めて参ります。あとのことはお任せください」

 静かにうなずく皇帝に向かってユフィオルトは深々と頭を下げると部屋を出て行った。
 その後ろ姿を横目で追っていた魔導師が、肩をすくめてため息をつく。
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