レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 寝室に静寂が訪れる。
 ノツィーリアは、立て続けに見せられた魔法というもののすごさに驚嘆させられっぱなしだった。
 つい率直な感想を洩らしてしまう。

「あの方は、凄まじい力をお持ちなのですね」
「ああ。力があまりに強大すぎるゆえ、魔導師の間でも奴を生かしておくべきか殺してしまうべきかと意見が分かれ、争いを起こしておったのでな。余が横からかっさらってやったのだ」
「そうだったのですね……」

 あれほどまでに強力な魔導師を連れ去ることができたと事もなげにいう。
 皇帝もまたすごい人なのだなとノツィーリアはしみじみ思いつつ、その顔をじっと見つめた。
 健康的な浅黒い肌、艶やかな黒髪。睫毛は長く、目蓋を伏せれば目もくらむような色気を漂わせる。その姿は冷徹皇帝と呼ぶにはあまりに美しく、物語に出てくる麗しの騎士を具現化したかのような姿だった。
 宝石のように煌めく赤い瞳が、ふと傍らに視線を投げる。

「そなたの父は、魔導師という存在の有能さを見抜けず迫害までしておったな。此度の作戦では、それが幸いした。もしもレメユニール王家でも魔導師を擁していたならば、国王に魔道具の利用を持ち掛けられなかっただろうからな。……いや、シアールードは隠密魔法も得意だから、あるいはどうにかできた可能性もあるが……」

 顎に手を当てて思案に耽る。
 しかしすぐに腕を下ろすと、ノツィーリアを見て少しきまずげに口元を微笑ませた。

「すまぬ、話が逸れてしまったな。先月、そなたが売りに出されると間者から報告が上がってきた際、あまりに下衆な発想にあきれ果て、また国王のそなたに対するむごい仕打ちに怒りすら覚えていたのだが……。それを聞き付けたシアールードが此度の作戦を思い付き、余に提案してきたというわけだ。金を積めば国交を断絶している敵国の元首であろうとも招き入れる、国王の愚昧さが幸いした」
「あの魔導師様が、作戦まで考えてくださったのですね」
「ああ、奴の発想にはいつも驚かされておる」

 父王の愚かさに救われる形となったことを教えられれば、最後に見た父の屈辱にゆがむ顔が脳裏に浮かんでくる。
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