修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「あっ、それから、この茶葉もありがとうございます。次にお会いした時に淹れたいのだけど……わたし、この茶葉を上手に淹れられるかしら? 高いお茶を淹れるのは、それなりの作法があると聞いたことがあるんですけど」

「確かに」

 ロルフは少し考えてから

「じゃあ、次に来る時は、その作法を教えてもらって来る」

 と告げる。

「まあ! そんなことが出来るんですか? ロルフさんの知り合いにそれをご存じの人がいらっしゃるのね?」

「ああ。いるよ」

「じゃあ、お願いしようかしら。そうしたら、わたしも楽しみに待っていますね」

 そう言ってレギーナは立ち上がって、嬉しそうに一回転して見せた。侍女の制服の裾がふわりと綺麗に回転をする。

「なあ、レギーナ」

「ん? なんですか?」

「俺のことは、ロルフ、とそのまま呼び捨てで呼んでくれないか」

「えっ? で、でも……」

 浮かれて回転をしていたが、それを止めるレギーナ。ロルフは穏やかに微笑んでいるが、なんとなく圧がある、と思う。

「ロルフ……?」

「ああ。そう呼んで欲しい」

「ロルフ」

 もう一度レギーナは名前を呼んだ。ロルフは微笑み、立ち上がった。

「うん。ありがとう。もう、大丈夫か? また泣いたりしないか?」

「だ、大丈夫ですっ、その、本当に……」

 かあっと頬を紅潮させるレギーナ。と、ロルフの手が伸びて来て、彼女の頬に触れる。

「えっ……」

「まだ、少し濡れている」

 そっと頬を撫でられ、レギーナはなおのこと、体温があがったような気がした。何度か彼の指が柔らかな頬を撫でてから、すっと離れていく。

「あんたはやっぱり笑っている方がいい」

「……わたしも、そう思います」

 レギーナはそう言って笑おうと思ったが、なんだか心臓の音がどきどきとうるさく響いて、それに驚いてうまく笑えない。ロルフは小さく笑って「じゃあ、また」と彼女の頭を手のひらでぽんぽんと叩いて去っていった。
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