修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「そうだったんですか……わたし、そんなことも知らずに……失礼しました」

 後継者選びについて、ロルフは簡単に説明をする。一か月から二か月の間、後継者候補を離れを与えて、後継者としての課題を出されるのだと言う。本来は伯爵がその結果を判断するのだが、今は伯爵が既に亡くなっている。よって、残された伯爵夫人と、メーベルト家の傍系の者数名、力は弱いものの屋敷の使用人たちにその権限は委ねられているらしい。

「そういうわけでね……次期後継者候補の人数が少ないからこの離れは使わないけれど、他3か所の離れは来週から使うことになっている」

 それも初耳だ、とレギーナは驚く。だが、考えれば次期当主候補が3人で既に離れを3か所使うということは、もうほとんどこの離れはレギーナが働いている間は、余程のことがなければ「使わない」ということだ。なるほど、それなら、本当に自分のような「適当な」人材に管理を任せても良いということなのだろう。そして、わざわざその説明を、レギーナをここに連れて来た侍女長がしなかったのもうなずける。

「じゃあ、最初からわたしの目論見は無駄だったっていうことですね……あっ、いえ、そのう、失礼なお話、申し訳ありませんでした……!」

 慌てる彼女に、ロルフは声をあげて笑った。その笑い声にクラーラは気付いたようで、ぼんやりと瞳を開ける。

「おにいちゃん……?」

「クラーラ。起きたか」

「ん……でももうちょっと眠いの……」

「そうか。じゃあ、もう少し眠ると良い。寒くないか」

「うん……」

 そう言って、クラーラは再びすうっと寝入ってしまう。ロルフは

「もう少しだけ寝かせておいてあげよう」

と言って、小さく笑う。優しいお兄さんだな、とレギーナは「はい」と小さな声で返事をした。

「申し訳ないんだが、もし、ここにクルトが来たら、相手をしてやってくれないか。目を離して良い年齢ではないのはわかっているんだが、どうにも言うことを聞かなくて……」

「はい。わかりました。大丈夫ですよ! 2人とも、ロルフさんがお迎えに来るまで、間違いなくわたしが見張っていますから!」

 レギーナはそう言って、どん、と胸を叩いた。それへ「ありがとう」とロルフは頭を下げるのだった。
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