美貌令息が私を溺愛するのは勝手だけど、嫉妬女を対処する私の身にもなってほしい
「やあ!ローサ!」

ベルナールは颯爽とあらわれ、嬉しそうに私に手を振った。

私は一人で薬草の買い物を楽しんでいたのだが…。


「こんなところで会えるとは奇遇だな!」

…私の隣でニコニコと嬉しそうにしているのはアウレリウス公の『美貌令息』ベルナールだ。

あえて『美貌』と付けたのは、本当に誰もが振り返る『美貌』の持ち主だからだ。

その端正な風貌だけではなく、数学や経済学にも精通し、剣の腕前は騎士団長にも匹敵する。

それでいて、本人は少しも偉ぶるところがない。

そう、本当に理想の『貴公子』なのだ。



そんな『貴公子』から、なぜか私は『溺愛』されている…。



「ローサと会えたから今日は良い一日だ!」

「そ、そう…。ベルナール、私、薬草をゆっくり見たいんだけど…。」

「それなら一緒に見よう!私が一番ローサに似合う薬草を探してやろう!」

「は、はははは…。あ、ありがとう…。」


…私もベルナールと一緒にいるときは楽しい。なんだかすごくチカラがもらえる。



――――――ただし…。



「あ!ベルナール様よ!」
「きゃあ!初めて見ちゃった!素敵~!」

「てか、隣の女なに?」
「彼女気取り?? なんなのよアイツ!!」



――――――問題はこれだ…。

ベルナールに自覚は全くないが、道行く女性が皆、ベルナールが通るたびにザワついているのだ。

そして自然とその隣に居る私に矛先が来る訳なのだ。

実害が無いときは別にいいのだが、問題は……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あ!ローサにキマイラの薬草をプレゼントしたいけど銀貨が足りない!ちょっと待ってて!」

「え?私を残していくの?? てか、そんな高価な薬草いいのに…。」

「ちょっとだけ待ってて!ローサと会えると思ってなかったからそんなに持ってなかった!」

そう言うとベルナールは走って行ってしまった。

「フゥ…、いつも突っ走るなあ。」

私は背中が小さくなっていくベルナールを見送ると、

「…でもうれしい。ありがとう。」とつぶやいた。

結局、私は薬草通りの路地裏で待つことにした。すると・・・。



「ちょっと!アナタ!」



「え?」

「アナタよ!名前は知らないけど!ベルナール様と一緒に歩くなんてどういうつもり!?」


…問題勃発。


「は、はあ…」

私は頭をかいた。

「ま、アナタみたいな人、ベルナール様が相手する訳無いけど、身の程をわきまえなさいよ!」

ドレスを着て、頭に小さなティアラも乗せた、身なりに気を遣ってそうな女だった。

「身の程?」

私は聞き返した。

「そうよ!聞こえなかった!?」

腕組みをしながら私を罵ってくる女。
別に聞こえなかった訳では無い。
なので私は女にこう聞いた。

「あなた、私の名前も知らないって言ったわよね?」

「ええ!知る訳ないでしょ!」

「じゃあ、どうして私の『身の程』が分かるの?どうやって、名前も知らない私の『身の程』を判断したの?」

女は少したじろきながら、

「そ、そんなの見れば分かるわよ!」

と言った。

なので私は、

「そう、見れば分かるのね。すごい能力ね。すごいすごいっ」

私は女の顔の前でパチパチと拍手をした。

「な、なに?馬鹿にしてるの!?」

女はいらだった様子で言ってきた。なので私は、

「馬鹿にしてる?私は『すごい』って言って拍手しただけなんだけど。なんで馬鹿にされてるって思ったの?」

と言った。さらに、

「馬鹿にしていいなら思いっきり馬鹿にするけど?」

と言って笑った。

「ふざけないで!!アナタみたいなみすぼらしい格好した女、身の程をわきまえていないって思って当然じゃない!!」

と、女は私の服装を罵倒し始めた。

「そう?ふつうのグレーのローブ着てるだけだけど?」

私は両手でローブの裾をつかみ、お姫様のようなポーズを取った。

女は今度はプッと吹き出しながら、

「それがアナタの普段着⁇ まあ、アナタみたいな『レベル』の人にはお似合いかもね。」

と、勝ち誇った顔をした。

私は、

「そうなのね。じゃああなたの『レベル』とやらはどうなのかしら?」

と聞いた。

すると女は待ってましたとばかりに語り始めた。


「私?私のドレスが目に入らない⁇ まあ、アナタレベルには分からないかもしれないけど。これは隣の国のドレス職人のオーダーメイドなの。金貨20枚分の価値なのよ。金貨20枚よ。」

と、頼んでもいないのに私の前で一周した。

「どう?」

女は見下すような表情で私を見てきた。


なので私は、


「アナタが自分の価値を金貨20枚以下って思ってるって事は分かったわ。」


と答えた。

女は意味が分からないって表情をしながら、

「どういうこと?」

と聞いてきた。

なので私は、

「私には『レベルの低いワタシは金貨20枚のドレスを着て、ナントカ背伸びしています』って風に聞こえてしまっただけなの。人間って、自分で自分に値打ちを付けたら安っぽく見えてしまうものなの。ごめんなさいね。」

と女にウインクをした。

女はワナワナと震えながら、

「や、やめて!じゃあアナタはどうなのよ!」

と聞いてきた。

なので私は、

「私の服はふつうよ。銅貨10枚くらいよ」

と答えた。

女は黙っていたので続けた。

「私は自分自身の価値を『金貨何十枚程度』だとかそんな風に考えて生きてないの。だからそんな装飾で自分の『レベル』とやらを上げて価値を付けようなんて微塵も思わないの。」

そして、

「アナタが本当にその服が好きで着てるのなら、私は何も言わないわ。でも、自分を大きくみせるためにその服を着て、ましてやそれにより見ず知らずの他人を罵るような人間、アナタはどう思う?」

私は、


「馬鹿にせずにいられないと思わない?」


と言った。

女の顔が青ざめていくのが分かった。

最後に、


「私はそんな人間、軽蔑せずには居られないわ。」


と、腕を組みながら言い、薄目で女をにらんだ。

そして、


「二度と話しかけないで。失せろ。」


と言い、女を向こうへ追いやった。



スタコラと去っていく女と、向こうから帰ってきたベルナールがすれ違った。

女は、

「べ、ベルナール様!私のドレス、どうですか!?」

と、ベルナールの前で一周まわって見せた。

ベルナールは、

「……?特に何も付いていないようだが? 失礼。」

と言い、私のところに来た。

「あ!ローサのローブ、小さいヒツジの刺繍がついてる!」

「よ、よく気付いたわね。実は虫食いがあって…。」

「ローサらしくてすごく似合ってるよ!かわいい!」

と、ヒツジの刺繍を撫でてくれた。



それを見ていたさっきの女が、膝から崩れ落ち、頭をガンガン地面に打ちつけているのが見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「…そういえばローサ、今度ウチで舞踏会があるんだけど、ローサも来てよ!」

「え!『ウチ』ってアウレリウス公邸!?無理無理!私、ダンスとか踊った事ないもの!」

「全然大丈夫だよ!私ベルナール、ずっと隣でローサに踊りを指南いたします。」

「いやいや、それはそれで別の問題が…」

舞踏会は若い女性も大勢着飾って参加するダンスパーティだ。嫌な予感しかしない…。

「ローサが来てくれるとなると、楽しみだなー!」

…ニコニコしてるベルナールとは裏腹に、私の心配は募るのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


〜舞踏会当日〜


「結局きちゃった。いつ見ても凄い御屋敷…。」

ベルナールから無理矢理?誘われた舞踏会に来たけれど、沢山の人やその雰囲気に圧倒される…。

「オーケストラも来てる…やっぱり私って場違い??」

そう思っていると、屋敷の奥の遠くの方からベルナールが登場した。

「本日はご来邸ありがとうございます。どうか皆様、楽しんでいってください。」

壇上から深々とお辞儀をし、来客者に順番に挨拶をしている。

「なんだか違う世界の人みたい…」

私が遠くからボーッとベルナールを眺めていると、

――――――やはり…。


『きゃ!ベルナール様だわ!』
『こちらに来てくださいまし…!』


――――――ほんと、すごい人気…。


ひと通り挨拶が終わると、いよいよオーケストラの演奏が始まり、舞踏会がスタートした。

管弦楽や吹奏楽の音楽が響き渡る。そんな中…


『ベルナール様!わたくしと是非!』
『いえベルナール様、わたくしが!』
『ベルナール様が、お手をお願いします!』


…みんなベルナールに群がっていく。
そりゃそうだ。みんなベルナール目当てで舞踏会に出席しているのだ。


しばらくベルナールを観察していると…

(ベルナール、全然周りの女の人の相手してない)
(ベルナールがキョロキョロしている)
(あ、ベルナール、私を発見)
(ベルナール、両手で手を振った)
(やばい…)


「おーーーい! !」


(ベルナールがこっちに走ってきた)
(どんどん近づいてくる)
(あ…)


「ローサ!待たせてごめんよおーーー!」


…ベルナールは私をギュッと抱きしめた。


(抱きしめていいとは言ってないぞ…)


「ローサ!踊ろう!」

「え、どうすればいいのか全然分かんないんだけど…」

「はははっ何でもいいんだよ!楽しければ!」

そう言うとベルナールは私の手を取り、エスコートしてくれた。

ベルナールのエスコートが上手なのか、私の体もわりとスムーズに動く。

「こ、こんな感じでいいのかな…」

「ローサが楽しんでくれてるのなら、それでいい!」

私はベルナールのなすがままに踊っていた。

「ちょっと楽しくなってきたかも…」

「おっ、ローサ、ちょっと慣れてきた⁇でも表情は固いなあ!笑って笑って!」

ベルナールは私をくすぐってきた。

「きゃははは!……ってベルナール、笑うってきっとそうじゃない…」

…でも確かに段々と慣れてきて、なんだか楽しくなってきた。

「ローサが来てくれてよかった!すごく楽しい!」

ベルナールは心から楽しんでいるように見えた。

そして…


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ローサ、疲れただろ?あっちにビュッフェがあるからのぞきに行こうよ!」

ベルナールがそう言うと…


『おーい、ベルナール!セネカ公爵がお見えだ!』


ベルナールのお父様の声がした。

「おっとごめん、ローサ!ちょっとおじさんに挨拶だけしなきゃ!あとで行く!」

そう言うと、襟をビッと正してツカツカと歩いていった。


「ベルナール、忙しそうだな。それにホスト役もきっちりとこなしてて凄いな…。」


私はビュッフェルームに行き、紅茶をいただいて椅子に腰掛けた。ホッと一息。すると・・・。



「アナタ、さっきベルナール様と踊ってた方ね?」



…髪の毛は高く巻き上げ、胸元が大きく開いた純白のドレスを着ているご令嬢が話しかけてきた。


「あ、はい…。」

私はペコっとお辞儀した。

「何よそのあいさつ。マナーがなってないわね。」

えっマナー?今のダメだったの?…と思ってたら、

「なんでこんな女がベルナール様と踊ってたのよ。私、許せないんだけど。」

…はいはい、そうですか。…問題勃発。


「ねえ!?あなた達もそう思わない!?」

女が後ろを振り返ると、

『そ、そうです!アイシャ様のおっしゃる通りです!』

なんか屈強な お付きの男が2人、直立不動で答えた。

(この女はアイシャと言うのか。てか、その後ろのおじさん達、…だれ?)

『ベルナール様にはアイシャ様がお似合いです!』

アイシャとやらは私を見て、

「ほら、みんなこう言ってるじゃない。」

とにらんできた。

(てか、言わせてなかった??)

「それにアナタ、ダンスのマナーが全然なってなかったわよ!」

アイシャの口撃は止まらない。

「ダンスのマナーですか?私、ダンス初心者なんです。マナーとか分からなくて。」

私は事実を伝えた。

「初心者とか関係ないわ。アナタはダンスのマナーもダメだし、あいさつのマナーもだめ!対人マナーが全部ダメだわ!こんな人がベルナール様と踊っていたなんて信じられない!」

「ねえ!そう思うでしょ!あなた達!」

『は、はい!アイシャ様の言う通りです!』

アイシャはこちらを見て、

「ほらね。」

と言った。

私は、

「さっきから『マナー』っておっしゃってますが、『マナー』って何ですか?」

とアイシャに聞いた。

「アナタ、本当にマナーを知らないのね!マナーとは相手に不愉快な思いをさせない事よ!」

と鼻息荒く答えた。


「そうですか…。じゃあ、アナタのマナーがなってないって事ですね。」

私はニッコリと微笑みながら言った。

「なんでワタクシのマナーがなっていないのよ!?」

とアイシャはさらに鼻息を荒くして聞いてきた。

なので私は、

「今の私の気持ち、分かりますか?もの凄く不愉快なんです。私は舞踏会の出席者として、ダンスを踊っていただけですよね?それに対して、いきなり話し掛けてきて 勝手にギャーギャー言ってるのはアナタですよね?私は今、心の底から不愉快です。」

と答えた。

アイシャは、

「ベルナール様と踊ってたんだから当たり前じゃない!」

と叫んだ。

なので私は、

「ええ、私はベルナールと踊っていました。それ以上でもそれ以下でもありません。それに対してギャーギャー言ってるのは完全にアナタ側の勝手な都合ですよね?私はアナタを不愉快にさせる行動は何もしていません。もっと言うと、アナタのことはどうでもいいです。心の底から。」

そう言って、ペコっとお辞儀した。

アイシャは私をキッとにらみながら、

「あ、あのダンスは何よ!あんなダンス、ベルナール様に失礼だわ!」

と、カクカクした私の踊りの真似をしてきた。

私は、

「失礼でしたか?私には分からないです。あのダンスも『マナー違反』だったのでしょうか?」

と、アイシャに尋ねた。

「当たり前じゃない!」

と、アイシャは吐き捨てた。




――――――そこへ、ベルナールが帰ってきた。


「遅くなってすまない!」

ベルナールはアイシャと向かい合っている私を見て、

「ん?どうかしたの?」

と小声で聞いてきた。

なので私は、

「私の踊りって『マナー違反』だったのかしら?」

と、ベルナールに聞いた。

ベルナールは不思議そうな顔をして、

「マナー違反?どこがマナー違反だったの?? ローサと踊ってて凄く楽しかったけど。」

と、ベルナールも私のカクカクした踊りの真似をしてきた。

「……私の真似はいいから。ねえベルナール、『マナー』って何かしら?」

ベルナールはさらに不思議そうな顔をして、

「マナー?マナーとは『相手に不愉快な思いをさせない事』じゃない?」

と答えた。

アイシャが言った『マナーの定義』と同じ回答だった。アイシャは一瞬うれしそうな顔をした。

「じゃあベルナール、ベルナールは私と踊ってて不愉快だった?」

と、あえて少し大きな声で聞いた。

「ぜーんぜん!!すっっごく楽しかった!!」

ベルナールはとびきりの笑顔と大きな声で答えてくれた。

「じゃあ私の踊りは、『マナー違反』じゃないって事ね!?」

と、私はさらに大きな声で聞いた。

「もちろん!!」

ベルナールは私の両手を取り、その場でステップを踏んでくれた。

「てかローサ、マナー違反って何のこと?」

ベルナールはあらためて聞いてきた。

「何でもないの。行きましょう。」

私はベルナールとホールへ戻ろうとした。

「あ!ベルナール、先に行ってて!」

私はベルナールに先に行ってもらうと、アイシャの元へ駆け寄った。そして、アイシャの耳元でささやいた。


「私、マナー違反じゃなかったんですって。よかった〜。ベルナール様のお墨付きもらっちゃった。ウフフ。」

アイシャの『ギリリリ』という歯ぎしりの音がビュッフェ内に響き渡る。

「あと、最後に一つだけ。」

私は付け加えた。


「私、アナタとずっと敬語で喋ってましたよね。アナタはどうでしたか?」

と尋ねた。

「アナタの言葉遣いの『マナー』はどうだったのでしょうか。マナーのなっていない人間が、マナーを語るなんて、片腹痛いと思いませんか?」

と言った。

最後に、

「片腹痛いの意味、教えてあげましょうか?」

と言い、さらにアイシャの耳元に近づいた。



「『笑わせんな』」



私はそう言い残し、ベルナールの元へ戻った。

後ろから歯ぎしりしすぎて歯が砕けてる音がした。屈強な男2人が、砕けた歯を拾っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


舞踏会開始から2時間ほど経った。
外は月が出る時間になっていた。

「おーい、ローサ!ちょっと夜風にあたりにバルコニーへいこう!」

…ベルナールはいつも私の事を気にしてくれる。素直にうれしい。



「なあ ローサ、私はいつでも、ローサに側に居て欲しい。」



ベルナールはサラッと言った。

「そ、そう…?」

私はどう反応していいか分からなかった。

ベルナールがクルッと私に背中を向けた。

「…? ベルナール、どうしたの??」

ベルナールは背中を向けたまま、

「もうローサは気付いてるかも知れないけれど、私はローサの事が……」



……そのとき!



『ガバッッッ!!』

(えっ!?)



……誰かが後ろから私の口を塞ぎ、2人がかりで私をかかえた!!

(え!? なに!? 声がだせない!!)


そしてそのまま運ばれていった!

どこまで運ばれただろうか。

着いた先は、邸内のせまい書庫だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


せまい書庫に運ばれた私は、両腕を何者かにおさえられたまま、どうにか声を出せるようになった。

「……何なの!? 誰!?」

…うっすら目を前に向けると、一人の女が目の前に立っていた。


よく見ると、さっき舞踏会で出会った女、アイシャだった。


「……あなた、よくもワタクシに恥をかかせてくれたわね。」


アイシャは笑っていたが、目は笑ってなかった。


「恥?なんなのよ…。これはやりすぎじゃないの!?」

私は両腕をおさえられたまま言った。

「あなたはそれだけの事をしたのよ。」

アイシャは笑ったまま呟いた。

「ねえ、そう思わない!?」

アイシャが言うと、

『は、はい!アイシャ様の言う通りです!』

…屈強な男2人が返事をした。私の両腕をおさえているのはその2人の男だった。


「恥をかかせた?だったら何だっていうのよ?」

私が聞くとアイシャは、

「だからあなたにはそれだけの『制裁』を受けてもらわないといけないの。」

「制裁?」

私はふたたび聞いた。

「そう。制裁。」


アイシャはしばらく黙ると…


「あなた、痛いのはお好き?」


と私に尋ねた。


「痛いのなんて嫌に決まってるじゃない!」


と私が言うと、

「それは残念ね。じゃあ あなたは今から嫌な思いをする事になるわ。」

と、口元だけ笑って言った。


「どうするつもり?」


私が尋ねると、

「あなたの両脇の男、強そうでしょう?」

と、屈強な男2人を指さしながら言った。

「彼ら、一度暴れ出すと手をつけられないの。たとえ私でも。」

アイシャは困ったような表情を作り、笑いながら語りかけてくる。

私は扉のあたりに目をやった。するとアイシャは、


「あ、この部屋には誰も来ないわよ。誰も近づかないように手配済みなの。『たとえベルナール様でも』。」


そう言うと、アイシャは笑いがこらえきれないといった様子だった。

最後に、アイシャは、


「ここは今は『治外法権』なの。意味わかる?? つまり、『何をやっても許される』って事。」


もうアイシャの鼻息は最高潮に達していた。
確かに誰も来る気配はない。

そして…!



「2人とも、やっておしまい!!」



アイシャが声高らかに宣言した!!




その時……!!




私はおさえられていた両腕をサッとひねり返し、屈強な男2人の腕をねじ曲げた!!



『メキメキメキ!!』

『グオォォォォォオ…!』



男達が苦しそうにうめく!


そして!


男達の股をヒールの先で蹴り上げた!


『キーーーーン!!』

『グアァァァァァアア!!』


うずくまる屈強な男2人。


私は一度ならずニ度三度四度と、男達の股を貫くほどに蹴り上げた!


『キーーーーン!!』
『キーーーーーン!!!』
『キーーーーーーン!!!!』

『グアァァァァァアア!!』
『グアァァァァァァアア!!!』
『グアァァァァァァァアア!!!!』


男達は床に倒れ込み、泡を噴きながらピクピクとうずくまっていた。



「さてと…。」


私はアイシャの目の前にきた…。



……アイシャはガタガタと震えながら、その場にへたり込んで『オモラシ』をしていた。

「ア、アゥ……アゥ……!!」

私は、

「『オモラシ』は『マナー違反』じゃないのかしら?」

と聞いた。

アイシャは口をパクパクしているだけだった。

私は、

「ねえ、私、聞いているの。答えてくださらない?」

と聞いた。


アイシャは、

「ゴ、ゴメンなヒャイ………!」

と、声をしぼりだした。



私はさっきの言葉を思い出した。

「そういえばアナタ、さっき素敵な言葉を教えてくださったわね。『治外法権』かしら?」


アイシャは今にも気絶しそうだった。


「『治外法権』って、確か『何をやっても許される』って事だったわよね?」

私がそう言うと、

「ゴ、ゴメンなヒャイ……!!」

と、さっきの言葉を繰り返した。

「その『治外法権』、私にも適用かしら?』

私はニコッと微笑んだ。

そして、

「私って、一度暴れ出すと手をつけられないの。そう…私でも。」

そう言って、アイシャの鼻先に顔を近づけた。


「た、たすけて………!」

アイシャはブルブルと震えている。

「この部屋は誰も来ないように手配済みなんですって。知らなかった?」

と、アイシャの首を撫でた。


『ハァッハァッハァッ……!!』

アイシャの息づかいが荒くなる!


そして…!



私はアイシャの顔面に強烈な頭突きをぶち込んだ!!


『グシャアァァァァアン!!』


鼻が潰れる音がする!


『ギャァァァァァァア!!』


アイシャの声ならぬ声が部屋に響く!

さらに……!


アイシャを両手で持ち上げ、ステンドグラスの窓に向かってアイシャを投げ捨てた!!


『ガッッシャアァァァァン!!』


アイシャの身体がステンドグラスの窓をぶち抜いた!!


『ギヤアァアァァァァアア!!』

『ドン!ドドン!!』


アイシャは丸太のようにそのまま中庭の隅に転がった。


『ピクッピクピクッ……!』


アイシャは完全に気を失った。


「フゥ…。」


私が振り返ると、屈強な男2人が立ちあがろうとしていた。

私は2人に、

「後片づけはよろしくね。」

と言った。


男達は

『は、はい!ローサ様!!』

と、最敬礼のポーズをとった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


私は舞踏会場のホールに戻った。

すると、ベルナールがすぐに私を見つけ、駆け寄ってきた。

「ローサ!気がついたら居なかったから驚いたよ!」

「…えぇ、私も驚いたわ…。」

私はドレスの裾をパンパンと払った。

「…おかげで、いい予行演習ができたよ。」

ベルナールはニコッと笑って、私の手を引いた。

「ねえ、どこに連れていくの?」

「いいから。」


……連れて行かれた先は、いつもベルナールが一人で座っている2人掛けのソファだった。

「ここに座って。」

ベルナールはソファを指差した。

「え?? えぇ…。」

私はソファに座った。

すると、ベルナールはソファの前で片膝をついて、私の方を向いて床に座った。

「え!?ベルナール、何してるの? なんで床に座ってるの!?」

するとベルナールは、

「もうローサは気付いているかも知れないけれど、私ベルナールはローサの事を心から愛しています。」

と、床に片膝をついたまま私に向かって言った。


(ええ、気付いてますとも…)


ベルナールは続けた。

「でも、私はローサの事を無理矢理手に入れようなどとはしない。私の事を受け入れてもらえるまで、いつまででも待つつもりだ。」

そして、

「だから今はローサの隣にはまだ座らない。ローサが私を受け入れてくれた時、初めて隣に座って、ずっとローサを守り続けたいと思う。」

…ベルナールは真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。


「ベルナール、貴方って不思議な人ね。完璧そうに見えて少し抜けてる。」


私は目に涙を浮かべながら笑った。

ベルナールは表情を変えず、真っ直ぐに私を見ていた。

「ベルナール、なんで私がベルナールを受け入れてないと思ってるの?」

ベルナールはまだピンと来ていない様子だった。


「私はとっくにベルナールの事を受け入れているのよ。大好きよ。ベルナール。いつもありがとう。」

ベルナールにそう伝えると、私もソファから降り、床に座った。

「ローサ……」

ベルナールの表情から緊張が解きほぐされていく……。

「これでベルナールと私は隣同士ね。」

私は笑った。


ベルナールも目に涙を浮かべながら、

「でもここ、床だよ?」

と笑った。


「…どこに居ても、私を守ってくれるんでしょ?」

私はイタズラっぽくベルナールに尋ねた。

するとベルナールは私をギュッと抱きしめた。


「ああ。どこに居ても。」


私もベルナールを抱きしめ返した。
ベルナールの背中は想像以上にたくましかった。



ふと窓の外を見上げた。今宵は満月だった。
いつもは何とも思わないお月さま。
今夜だけは、私たちを祝福してくれているように見えた。



「ローサ、愛してる。」


 -完-
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