嘘からはじまる恋のデッサン
「あ、あの……?」

「あ……えっとごめんな。俊哉(としや)じゃなくて俊哉(しゅんや)って読むんだ」

「えっ、そうなんですか」

俊哉から名前を教えて貰った時、ルビはついていなかったため私は『としや』と読み、おじさんを想像していたが、俊哉(しゅんや)と呼ぶのなら、確かにこうして直接会うことがなくても私の中のシロクマ先生の年齢はもう少し若かかったかもしれない。

「なぁ、そういえばマサル、腹減ってないか?」

俊哉がコンビニの袋から肉まんと温かいレモンティーを取り出すとこちらに向かって差し出した。

「あ……大丈夫、です」

「えっと……そうだよな……見ず知らずの人から貰ったモノなんて気持ち悪くて食べれないよな。無神経でごめんっ」

慌てて私に向かって頭を下げる俊哉を見て私は首を振った。

「ち、がうんです……その……肉まん、先生が食べようと思ってたものじゃないのかなって」

「そうか。マサルは本当に優しいな。僕のことはいいから、遠慮だけって言うなら食べて」

俊哉は私の膝の上にまだ温かい肉まんを乗せるとレモンティーを私のすぐ横に置いた。

「ありがとう……ございます」

「あ、いやこんなもので丁寧にお礼を言われてしまうと困るから……」

まだ俊哉に出会ってから数十分程度だが、俊哉は人の良さがにじみ出てていて私は何だかほっとする。そして空腹だった私はすぐに肉まんにかぶりついた。

「おいしい……」

私は俊哉の買ってきてくれた肉まんを夢中で頬張った。こんなに美味しいと感じる肉まんは初めてだった。そして食べ終わると、私は疑問に思っていたことを口にした。

「あの……聞いても……いいですか?」

「ん? 何かな?」

「どうして……私が……マサルって男の子のフリをしてるってわかったんですか?」

私が俊哉に送ったメッセージに記載した公園が偶然にも俊哉の住んでいる家のすぐ近くで、それを見た俊哉が駆けつけてくれたのだとしても、ベンチに座ってるのが女の子だったなら普通ならマサルはいないと思って帰るんじゃないだろうか。

「あ。うん……さっき、マサルからメッセージ貰った時だけど……一度だけ一人称が『私』になってたから……あとここ数カ月やりとりさせて貰ってる中で職業柄、女の子なのかもしれないなって思うことが時々あったから」

「え? 俊哉先生の職業って?」

「あぁ、大学の非常勤講師として働いてるんだ。日々若い生徒たちと接するからね。うまく言えないけど……なんとなく分かっちゃうときがあって……」

「あの、だから……私が公園に泊まるって言ったとき女の子だって気づいてたから慌てて返信してくれたんですか?」

「そうだよ。一応教師の端くれなんだ、生徒の一大事、それも女の子が公園で一晩夜を明かすなんて知ってしまったからには居てもたってもいられなくて……それにまさかマサルのいる公園が僕のアパートのすぐ近くだとは思わなかったしね。マサルに公園の名前を聞いたのは、何とか場所さえ特定できたら警察に様子を見に行ってもらえないか問い合わせしてみようと思ったんだ……」

「先生……」

こんな私でも俊哉の生徒の一人として心配してくれた優しさに目の奥が勝手に熱くなる。私はそれを誤魔化す様に鼻を啜った。
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