君となら生きていけるかも
1章

秘密の時間

夢音(ゆのん)ー!!おはよー!」

友達の真理ちゃんが挨拶をしてくれる。私は手を振ってこたえる。

「今日数学の小テストあるって!私知らなかったんだけど!?夢音知ってた?」

こくこくと頷く。真理ちゃんまた赤点なんじゃない?うっそ、まじかー。と頭を抱え出す。よ!と後ろから中山君に挨拶をされたので手を挙げてよ!っと返す。

「お、おかんじゃん。はよー。どした?」
「おかんちゃうわっ!!ねー!今日数学の小テストあるんだってね!知らなかった!!」
「ドンマイ。」

にこにことその様子を後ろから見守る。飯島真理で苗字と名前がどちらもまだからおかんって呼ばれてるんだって。まぁ、真理ちゃんちょっと世話焼きなところもあるし納得かな。

「珠姫、はよ。」

後ろから声をかけられる。上原君だ。私は声が出せないのでまた手を振ってこたえる。

「?おかんどうかしたの?」
「っ………。」

あー。声出せないんだった。えっと……。スマホを出して文字を打つ。それを横から覗き込む。

「あー、数学の小テストか。珠姫やった?」

肯定の意味をこめて頷く。

「あいつまた赤点だな。」

ふふ。そうだね。上原君は私と歩幅を合わせて歩いてくれる。まじそゆとこイケメンだわ。

「夢音ー!!」

がばっと抱きついてくる真理ちゃん。………赤点だったら補習付き合ってあげるね。
















「小テスト返すぞー。」

ぎゃぁぁ。と真理ちゃんの悲鳴が聞こえる。

「はいまず、珠姫と上原ー。お前らまた満点だー。定期テストも期待してるぞー。」

私は席を立って小テストを貰いに行く。

「珠姫。いぇい。」

と目の前で手のひらを出されたのでハイタッチをした。

「はい。飯島ー。赤点だー。」
「いやー!!なんでぇ!!」

真理ちゃんやっぱり赤点だったかぁ。夢音ー。と泣きついてくる。補習は付き合うよ。

「待って、中山!お前は!!」
「ふっ。聞いて驚け。ギリギリ回避だ。」

うっそ!っと崩れ落ちる。クラス中が笑いに包まれた。その瞬間、私はふっと思う。わたしも喋れたらなぁって。いつも声が出せないから後ろから見守ってるだけしかできない。私も会話に混ざりたい。でも文字打ちながらだと会話のテンポが崩れるし、まず待ってもらわなきゃいけない。空気悪くしたくないから私は後ろから見ている。

「珠姫またおかんの補習付き合うの?」

こくっと頷く。だけど上原君はそんな私の思いを知っているかのように私のペースに合わせて会話してくれる。文字を打っている時も急かさないしゆっくりでいいよ。とまで言ってくれる。まじ優男やわ…。














お昼の時間になって私はお弁当を持って教室を出る準備をする。

「真理ちゃん、補習大丈夫そ?」
「うぅ…頑張る……。」

真理ちゃんの周りにいっぱい人が集まってくるからだ。中山君と上原君は2人でご飯食べてるから邪魔できない。私はドアを開けて教室を出た。

「っ……!」
「っぁ……ごめ、珠姫……。」

すると教室から物凄い勢いで出ていった上原君。………ぶつかってないから大丈夫なんだけど…。ちょっと顔色悪かった?くるっと後ろを向いて中山君を見る。焦った様子は見られないから大丈夫なのかな?私は心配になりながらも今日はどこで食べようか考える。……あ、階段の踊り場あいてる。ここにしよう。

「っ……!」

上原君?しゃがみこんでいる上原君がいた。やっぱり体調悪い!?どうしよう……声出せない。と、とりあえず肩トントンしてみるか。

「っ……た、まき…………?」

こちらを向いた顔は真っ青で冷や汗がたれている。え、本当に大丈夫!?あたふたとしているといきなり手首を掴まれた。

「っ…!っっ……!?!?」

そのままダンっ!!と壁に押さえつけられる。な、に………。

「もしかして、ケーキか…………?」

ケーキ?ケーキってあのケーキ?待って、どういう事?理解が追いつかない。ボタボタと唾液が口の端からこぼれ落ちている。眼光は鋭く目で食べられてしまうのではないかと勘違いするほど怖い。

「ご、めん……。もう俺に近づかないでっ…。珠姫を傷つけるっ……。」

袖で口元を拭きながら力なく笑う。待って…。

「っ……。」

声が出ない……。ちゃんと話がしたいのにっ……。上原君っ!!

「今あった事は他言しないで欲しい。」

そう言って走っていってしまった。私はその場に座り込む。

「…………うえ、はら君……。」

誰もいないと声が出る。なんで……。なんで出ないのっ。


………この世の中にはフォークとケーキ、ノーマルの3種類の人間がいると聞いたことがある。それにフォークがケーキを襲って逮捕されたっていうニュースもたくさん聞いた事がある。フォークはケーキを欲し探し求める。ケーキは運命のフォークに出会うまで自分がケーキだと知らない。

ケーキ?ん?私がケーキって事?え、まじ?…でも上原君のあの様子を見ると私はケーキで間違いなさそう。

「……うん。唐突すぎる。展開が…。」

もぐもぐとお弁当を食べながらそう思った。












その後、上原君はいつも一緒にいるが喋りかけては来なくなった。イツメンだから一緒に居るだけみたいな。でももともと口数が少ない人だったから誰も不審に思うことなく時間が過ぎていく。ちょっと悲しいな。

『あんたの事友達だと思った事1回もなかったよ。』

「っ………!!」

なんで急に昔の事が……。ズキズキと頭が痛み出す。

「夢音?どうかした?」

やばい。心配かけてしまう。私は笑顔で首を振る。

「そう?でさ?」

危なかった。でも…急に昔の事思い出すって何か関係………。え、私、上原君に嫌われた?そう思った瞬間ぶわっと冷や汗が出る。や、やだやだ。私……もう1人にはなりたくない……。あ、謝る?でも近づかないでって言われた……。どうしよう。考えがまとまらない。でも……でも。いつも私に優しくしてくれた、から……。このままで終わりにしたくない。は、なしだけでも聞こう。
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