名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。
プロローグ


 ベリが丘にある老舗のオーベルジュ、『フランボワーズ』の客室の中。天蓋付きの豪奢なベッドに組み敷かれた雛未(ひなみ)は、何度も荒い息を吐き出していた。
 
「んっ……!は、あん……!」
「そんな声も出せるんだな」
 
 口づけの合間に窮屈な息継ぎを繰り返した末に、目の前の男にもう無理だと涙目で訴えると、灰色がかった鷹のような鋭い瞳と視線が絡み合った。

 男が己のワイシャツのボタンを片手で外していくと、少し癖のある長めの前髪が一緒になって左右に揺れた。
 ほどよく引き締まった身体がベッドサイドに置かれたアンティークランプによってオレンジ色に照らされていく。
 あまりにも扇情的な光景で、雛未はとてもじゃないが直視できなかった。

「目を逸らすな」

 男は雛未の無言の訴えをあっさり退けると、あろうことか留め具が緩んだ下着からまろび出た、豊かな胸を手で持ち上げた。先端を口に含むと、芳醇なワインを味わうようにゆっくり舌で転がしていく。
 甘い痺れが全身を貫き、思わず身体が跳ね上がる。
 雛未がクタクタになるまでひとしきり先端を愛でた男の手は、更にフレアスカートの中に伸びていった。

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