名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。

(なんかもう……。色々だめだな……)

 雛未はより一層祐飛にくっつき、その胸板に顔を埋めた。
 祐飛の身体は上気し、うっすら汗ばんでいた。

(私が待ってると思って、走ってきてくれたのかな?)

 休日に呼び出されて疲れているだろうに、走ってきてくれたことが嬉しい反面、苦しかった。
 祐飛が傍にいると、際限なく甘えてしまう。
 祐飛のせいで雛未の心は豆腐のように、へにゃへにゃになってすっかり脆くなってしまったみたい。

「庇ってくれて……ありがとうございました」
「いきなりどうした?」
「……お礼が言いたかっただけです」

 ――なにもしなくていい。ただ抱きしめていて欲しい。

 打ち上げられた花火が雛未と祐飛の姿を幾度も照らしていく。
 けれど、今は。花火よりも祐飛の心臓の鼓動を聞いていたかった。

「……浴衣、似合ってるな」

 飾り気のない褒め言葉なのに、背中から羽が生えて飛んでしまえるほどに嬉しい。

(どうして……)
 
 祐飛の掛けてくれる言葉のひとつひとつに、これほど心を動かされてしまうのだろう。
 信頼以外の感情が芽生え始めていることに、気づいてはいけなかったのに。
 この結婚は花火のように一瞬で終わってしまうものなのに。

(祐飛さんのことが好き――)
 
 なぜ今更、自分の気持ちに気づいてしまったのだろう。

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