名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。

(本当にバカだ……)

 いつか好きになってもらえればと、何も知らずに呑気に構えていた自分にほとほと呆れてしまう。
 
(祐飛さんは純華さんが好きなのに)
 
 目尻から涙が溢れそうになって、慌てて女子トイレへ駆け込む。
 鏡の前で何度も深呼吸を繰り返していくと、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
 ハンカチで涙の痕を拭い、なにごともなかったかのように廊下へ戻ると、そこかしこから慌ただしい空気が漂ってきた。
 ナースステーションと病室の間を看護師が忙しなく行き来している。
 受付カウンターでは茉莉がひとりで泡を食っていた。

「雛未さん!どこにいってたんですか!?」
「どうしたの?」
「大変です!例の寝たきりだった三号室の患者さんが意識を取り戻したそうなんです!」

 ……それは、誰も予想していなかった結末だった。



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