名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。
7.さまよう心

 
「雛未さん!」
「純華さん!どうぞこちらです!」
 
 雛未から連絡を受けた純華は、とるものもとりあえず大急ぎで病院へ駆けつけた。
 いつもならカウンターの前で受付情報のやりとりが発生するが、今回は例外だ。
 雛未が先導する形をとり、ノーチェックで純華を病室まで連れて行く。

「ありがとう、雛未さん!」
 
 純華は礼を言うと、病室の引き戸が慌ただしく閉まっていく。
 純華に引き続いて若狭夫人と聖が到着し、病室とカウンターを往復するたびに、辺りが張りつめた空気で満たされていくのが分かった。
 部外者の雛未は、この状況で病室に入ることを許されていない。

(どうか、若狭議員が無事ありますように……)

 雛未にできるのは祈る捧げることだけだった。

 ――若狭國春が長い眠りから目覚めたのは、蝉しぐれが降り注ぐ八月の終わりのことだった。

 
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