名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
『本当に癌なの……?』
『うん、そうみたい……』
胃腸の調子が悪いと言って受けた精密検査の結果は、想像しうる中で最悪のものだった。
開腹手術も行ったが、残念なことに癌は周辺の臓器に転移した後で、手の施しようのない状態だった。
病巣を切り取ることもなく短時間で終わった手術の後、目を覚ました母は粛々と結果を受け取った。
結局、本人の意思を尊重し、根治治療は行わず延命治療に舵を切ることになった。
『人生の終わりが分かっているって、本当に不思議な気分よね。残された時間を大切にしないとね』
突然の事故や、予期せぬ災害でいきなり死が訪れることもある。終わりが分かっているという恐怖もあるが、母のように幸運だと感じる人もいるだろう。
心の整理をする時間があって、助かったのは雛未も同じだった。
母は残りの人生を悔いなく生きた。
やり残したことがないように、友人と会い、遺影を撮り、雛未と旅行にも出かけた。雛未も最後に精一杯の母親孝行をしたつもりだ。
八ヶ月はあっという間に過ぎ去った。
余命半年と言われた母だったが、医者の見立てより二ヶ月も長く生きてくれた。
母の最期はあっけらんかんとしたものだった。
病院のベッドの上で、眠るように息を引き取った。穏やかに目を瞑るその顔が、苦痛に満ちたものでなくて本当に良かったと思う。
だからこそ、悲しみを背負い過ぎてはいけない。
雛未はこれから母のいない人生を生きていかなければならないのだから。