名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「雛未さん、また遊びに来てくださいね!」
雛未は車に乗り込むと、助手席から純華に手を振り返した。
車は若狭邸を出発すると、夕暮れに染まるノースエリアを駆け降りていく。
「あの……お義父様のお手伝いは大丈夫なんですか?」
「ああ。問題ない」
淡々と語る祐飛の横顔がこの時ばかりは輝いて見える。わざわざ若狭邸まで迎えに来てくれるなんて思ってもいなかった。
「純華と二人で話してみてどうだった?」
「楽しかったですよ。お土産に手作りのアイシングクッキーまでいただきました」
「そうか。よかったな」
会話が途切れると、車内に沈黙が流れる。
雛未は窓の外にある夕暮れでオレンジ色に染まったノースエリアの風景をぼんやりと眺めた。
(まるで正反対だ……)
好きでもない男と結婚し、不本意ながら何度も身体を重ねる雛未。
好きな男と結婚したが、深い関係になることを避けられている純華。
雛未は離婚の条件について、あえて祐飛に問いたださなかった。
祐飛がこの結婚をどう感じているのか。
知ってしまうのが――怖かった。