アンダー・アンダーグラウンド

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「良い! 良いよ! 雰囲気良い!」
 とうとう着いてしまった神社で月ノ瀬はお決まりのごとく、首が置いてあった現場の上に立つと、歓喜の声を上げた。やはり感覚で分かっているらしい。そのまま辺りを見回して深呼吸した後、目を閉じ、また少し顎をあげた。
「亜希君。お願い」
 僕は戸惑う心をどうする事も出来ないまま、何とかバレないようにと、言葉を選びながら約束通りゆっくりと話し始めた。
「牧原紫。中学三年生。学年でも人気者の女子で男女分け隔てなく接する事が出来る社交家。は言い過ぎか。まぁ学校でも割と知られた存在だったよ。僕が居た頃からね。それから、殺されたのはこの場所だ。今、君が立っている場所に首が置かれて、それを中心に細かく刻まれた肉体の欠片で大きな五芒星が描いてあった。五つの頂点には大きなロウソクが立てられて、発見された明け方もしっかりと火が点いていたらしい……こんな所かな」
「確か……彼女からだよね。現場で殺害、解体されるようになったのって。あと、牧原紫にはもう一つ違う所があったよね?」
 月ノ瀬はゆっくりと顔を戻し、目を開く。僕と視線を交わらせると薄く笑った。
「両目ともくり抜かれていた。大事な所じゃん。見落とすなんて亜希君らしくない」
「そうだったね。そしてそれは今も見つかっていない。見つかっていないのは黄田茉莉菜の胴体と牧原紫の両目だけだ」
「その通り! やっぱりいいねーここ。凄く良い。こうでなきゃねー。ねぇ亜希君? 私、明日が楽しみになって来ちゃった!」
 月ノ瀬はそう言うと、また目を閉じてこの場所の空気に浸り始めた。やはり勘が働いているしい。ここに残っている「狂気」を余す事無く全て感じ取ろうとしているのだ。
 しばらく沈黙が流れる。風が吹いていない今日は木々のざわめきも聞こえて来ない。
「あれ?」
 いきなりパッと顔を戻したかと思うと、小首を傾げながら月ノ瀬は呟いた。
「なんか分かりそう……かも」
 月ノ瀬はそう言い残すと「ごめん! 先帰るね!」と突然走り出し、あっという間に居なくなってしまった。僕は返事もせずにただ、その場に立ち尽くしていた。
 何となくもうそろそろ限界な気がしていた。
 胸騒ぎがする中、ベッドで天井を眺めていると携帯が音を鳴らしながら光る。月ノ瀬からのメールだった。真っ暗な部屋で開いたメール画面に目を細める。ぼんやりと視界に入ってきた文面はとても簡潔なものだった。

【わかった。次、殺されるの私だ】

 こうして放課後ミステリーツアーは僕の予想とは違った形で、五人目に辿り着く事無く終わってしまった。
 ――――翌日、学校に月ノ瀬緑の姿は無かった。
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