アンダー・アンダーグラウンド

「そう言えばさ。僕が真相を掴んでいない筈が無いって理由をまだ聞いて無いんだけど」
 月ノ瀬を家まで送る道中、僕は沈黙したまま思案を続けている彼女に見返りを忘れている事を優しく伝えた。
「あ、そう言えば! ごめんごめん」
 月ノ瀬は歩を止めずに顔を上げて、悪びれもせず微笑んだ。
「亜希君がさ。後輩ちゃんが殺されて、少し暗かったから」
「それだけ?」
 月ノ瀬は控えめに首を振った。
「それだけじゃないけど。でも亜希君が落ち込むなんて私、見た事無いよ? これは私のイメージだけど、亜希君は後輩ちゃんのお葬式に行くからなんて理由で先に帰るタイプじゃないもん。いつだって私の事を優先してくれてるのに。ちょっと嫉妬しちゃう」
「……そう。かな?」
「そうだよー! だから、その後輩ちゃんはよっぽど気にかけてた子だったんだろうなって。そんな子が殺されたらやっぱり何か行動するんじゃないのかなって。まぁ願望みたいな所もあるかもね。どうでしょう?」
 月ノ瀬はマイクを向けるフリをする。何とも答えづらい質問だ。でも、これで色々とバレバレなのはわかった。僕が彼女の事を良く知っているのと同じく、彼女もまた僕を知っているのだ。例えそれが全てではなくとも、誰よりも理解しているのだ。
 僕は少しだけ嬉しくて微笑んでしまった。
「そうだね。妹の親友だったし。割と仲が良い子だったよ。正直、月ノ瀬の言う通り大分落ち込んだ。って言っても近しい人が死んだのはこれが初めてだったから。彼女に限った事じゃないと思うけどね」
 月ノ瀬の手をやんわりと押し戻す。戻されたその手は見えないマイクを手放してダランと下がった。
「うーん。まーそうだと良いけどね。ま、どっちでもいいけど!」
「変な言い方をするね」
「あ! あともう一つ!」
 月ノ瀬は僕の前に飛び出して振り返った。少しだけ身を屈めて嬉しそうに僕の顔を伺う月ノ瀬の顔はとても無邪気に見えた。

「――――亜希君も殺されるかも知れないから!」
< 6 / 16 >

この作品をシェア

pagetop