まどろみ3秒前

sleep 8


【said Sui】


こんなに何かに一生懸命になれたのは、久しぶりだった。全部どうでもよくて、感情を持って何かに全力になることなんて、本当にバカらしく感じてたのに。

それでも、何か感情を持てても。

溺れていくように、深く深く沈んでいく感覚は、何も変わらない。


「あの、朝くん」


いつものように、交差点まで送ってくれるという彼に私は重くならないように笑みを浮かべて言った。


「聞いたりしないの?…私のこととか」

「ん?聞くって?」

「その…あんまり詳しく説明、してないし。自分でしか起きれない、病気のこととか」

「えーだって、翠さん涙目になるでしょ」


彼は笑って私をバカにするだけで、あまりちゃんと答えてはくれなかった。

病院で言われたことも、彼には言いたい。いや、一緒に寝てくれなんてお願いをしたからには事情というのを言わなきゃいけない。

ちゃんと言葉にできるだろうか。話せば、彼はどんな反応をするのだろう。


「じゃあ逆に質問していい?」


どこか、雨の湿った匂いがした。明日は、雨なんだろうか。
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